細田芝子は入り口に座り、馬場絵里菜が来たのを見ると急いで立ち上がり、積極的に絵里菜のカバンを受け取って掛けてあげながら、気遣うように声をかけた。「絵里菜ちゃん、体調はどう?もう大丈夫?」
馬場絵里菜はまずお礼を言ってから、うなずいた。「もう大丈夫です。おばさんもおじさんも心配しないでください」
「大丈夫なら良かった。最初に聞いた時は本当にびっくりしたわ」絵里菜の顔色と様子が普段と変わらないのを見て、細田芝子も安心し、店主の女性に向かって言った。「お料理お願いします!それと子供たちにコーラを2本お願いします」
店主が個室を出て行き、ドアを閉めると、細田芝子は細田登美子に向かって言った。「お姉さん、この前絵里菜ちゃんが入院した時、私は都合がつかなくて見舞いに行けなかったの。行こうと思った時にはもう退院していて、怒らないでね」
「何を言ってるの、あなたが絵里菜のことを気にかけてくれているのは分かってるわ。その気持ちだけで十分よ。それに、あなたたち夫婦は皆勤手当があるのだから、簡単に休めないでしょう」と細田登美子は言った。
細田芝子は世田谷区のアパレル工場の裁縫師で、仕事は大変で、よく残業をしていた。技術職とはいえ、給料はそれほど高くなかった。
進藤峰は鉄道貨物の運搬作業員で、夜明け前に起きて仕事に行かなければならず、一日中たとえ体格が良くても腰や足が痛くなるほど疲れる仕事だった。しかし、誰でもできる仕事ではないため、進藤峰の給料は比較的高めだった。
このような状況で二人が時間を作って絵里菜を見舞いに行けなかったことを、細田登美子は当然理解していた。
細田芝子は姉のことをよく理解していて、姉がこのことで気にすることはないと分かっていたが、自分の心が済まないだけだった。
「そうそう芝子、まだ話していないことがいくつかあるの」と細田登美子は話題を変え、細田芝子を見ながら言い出した。
細田芝子が尋ねる前に、細田登美子は自ら話し始めた。「まず一つ目は、私もまだ慣れたところなんだけど、パラダイスで12年働いて、辞めようと思っていたのに、思いがけずパラダイスの総支配人になったの」
「えっ?」細田芝子はこのニュースを聞いた時の馬場輝と同じような反応で、目を見開いて驚いた様子だった。進藤峰も表情を変え、今の話を聞き間違えたのではないかと思った。