第091話:目が覚めたの!

この数年、古谷おじさんは登美子の面倒をよく見ていて、登美子にとって数少ない友人と呼べる存在でしたが、古谷おじさんの息子については、馬場絵里菜は一度も話を聞いたことがなく、会ったこともありませんでした。

ただ、馬場絵里菜は古谷おじさんが若くして妻を亡くし、一人で息子を育て上げたことは知っていました。しかし、古谷おじさんの豆腐店は老舗で、普段から忙しいのに、息子の古谷始が手伝いに来るのを見たことがないのは不思議でした。その代わり、明が毎朝早くから豆乳を届けに来ていました。

明のことを思い出して、馬場絵里菜は突然あの朝のことを思い出しました。古谷おじさんの息子に会ったことがなかったので、豆乳を届けに来た明を古谷始と間違えたとき、明は「古谷おじさんの息子は俺の兄貴だよ」と答えました。

馬場絵里菜はその時、明がユーモアのある返事をしたと思い、古谷おじさんの息子をヤクザみたいに言ったと感じました。

しかし今、目の前のソファーに横たわる傷だらけの古谷始を見て、馬場絵里菜は薬を塗る動作を思わず止めました。

本当にヤクザなの?

深く考えることなく、馬場絵里菜は思考を切り上げました。外はもう夜明けで、薬箱を片付けると、そのまま台所へ向かいました。

古谷始が目を覚ましたのは午前9時近くでした。その間、馬場輝が心配で一度戻ってきましたが、古谷始が安らかに眠っているのを見て、また店に戻っていきました。

馬場絵里菜は向かいのソファーで本を読んでいましたが、何か気配を感じたように顔を上げると、古谷始も細めた目で彼女を見ていました。馬場絵里菜は急いで本をテーブルに伏せ、立ち上がって近寄りました。「古谷始さん、目が覚めましたか?どこか具合の悪いところはありませんか?」

古谷始は一眠りして少し体力が回復し、かすかに口角を上げて無理な笑みを浮かべましたが、傷に触れて痛みを感じ、すぐに表情を戻しました。そして小さな声で「大丈夫だ」と言いました。

体中の傷が適切に消毒処置されているのを感じ、古谷始は「ありがとう」と付け加えました。

古谷おじさんへの思いから、馬場絵里菜は古谷始に自然と親近感を覚えていました。そこで軽く微笑んで「気にしないでください。お粥を作ったので、少し飲んでみませんか」と言いました。