第089章：まずは彼の傷の手当てを

その男は扉を突き開けると、バランスを崩して「ドン」という音とともに店の入り口に倒れ込んだ。

細田登美子は驚いて二歩後ずさり、馬場絵里菜と馬場輝も慎重に前に進み、地面に倒れている男を驚きの表情で見つめた。

男の顔は血だらけで、その姿は全く見分けがつかなかった。白いジャージは至る所が破れ、服は汚れと血痕で覆われており、明らかに誰かと喧嘩をしたようだった。

細田登美子は心の中で大きな恐怖を感じたが、母親として本能的に娘と息子を後ろに庇い、恐怖を押し殺しながら身を屈めて声をかけた。「お、お兄さん？」

男は地面に伏せたまま、しばらく反応がなかった。

「ママ、死んでないよね...」馬場輝が不安そうに小声で言ったが、その言葉を口にした途端、自分の体中に鳥肌が立った。

細田登美子の心臓の鼓動は更に激しくなり、勇気を振り絞って二歩前に進んだ。すると、それまで息もしていなかった男が突然咳き込んだ。

「ゴホッ！」

その声は力なく、口から血の泡を吹きながらの咳込みに、細田登美子は再び驚いて飛び上がった。

馬場絵里菜はすぐさま前に進み出て、男の傍らにしゃがみ込んだ。男の目は大きく腫れ上がっていたが、半開きの状態で、明らかに意識はあった。

馬場輝と細田登美子も周りに集まってきて、男がまだ呼吸をしているのを確認すると、馬場輝もほっと息をついて言った。「警察に通報しよう？それとも救急車？」

細田登美子はそれを聞いて急いで頷いた。幸い、総支配人になってから会社から携帯電話が支給されていた。

通報しようと立ち上がろうとした時、男が突然か細い声で呼びかけた。「登美子おばさん...」

その場にいた全員が驚き、馬場絵里菜と馬場輝は同時に細田登美子の方を見た。馬場絵里菜が尋ねた。「ママ、この人知り合い？」

細田登美子は呆然としていた。男の顔は血だらけだったが、輪郭はなんとか分かった。細田登美子は一生懸命思い出そうとしたが、このような人物を知っている記憶がなかった。

「あなた誰？」細田登美子は困惑して尋ねた。

「登美子おばさん...僕...古谷始...」男は痛みに耐えながら歯を食いしばって言った。

古谷始！

「古谷始？」細田登美子は驚いた表情を見せ、急いでしゃがみ込んだ。それまで恐怖を感じていた彼女は、目の前の男を抱き起こし、半身を自分の腕の中に寝かせた。