第098章：もう十分でしょう

鈴木由美は冷静になれるはずもなく、たった今クラス全員の前で馬場絵里菜に平手打ちされたばかりだった。普段からクラスメートの前で横暴な振る舞いをしていた彼女にとって、今回の一件は簡単には済まされない。

「馬場絵里菜、今日あんたの顔をボロボロにしてやらなきゃ、私は鈴木由美じゃない」鈴木由美は怒り狂った雌ライオンのように威嚇した。

馬場依子は体が弱く、生まれつき華奢だったため、鈴木由美を止めることはできず、ただ口で諭すしかなかった。「由美、喧嘩はやめて。みんなクラスメートなんだから、話し合いで解決しましょう...」

すでに我を失っていた鈴木由美は、馬場依子の制止を振り切り、空いた手で馬場絵里菜の髪を掴もうとした。

皆が馬場絵里菜が殴られると思った次の瞬間、馬場絵里菜は素早く手を上げ、鈴木由美の細い手首をがっちりと掴んでいた。

周りの生徒たちは「やべぇ」と心の中で呟いた。その動きの速さに驚いた直後、馬場絵里菜は何も言わずに力を込めて鈴木由美の手を机の上に押さえつけ、もう一方の手で机の上を素早く払うと、先の尖った万年筆を手に取った。

馬場絵里菜は無表情で、その美しい顔には何の感情の起伏も見られなかった。彼女はためらうことなく手を上げ、鋭い光を放つペン先を鈴木由美の手の甲に向かって突き立てようとした。

「きゃあ！」

周りの生徒たちは思わず悲鳴を上げ、顔を背けた。鈴木由美は目を閉じ、体を縮こまらせた。

教室は一瞬にして不気味な静けさに包まれ、鈴木由美から予想された悲鳴は聞こえなかった。

皆がゆっくりと目を向けると、鈴木由美の手の甲に向かっていた万年筆は、机の上にまっすぐに立っていた。しかも、万年筆が刺さっていたのは鈴木由美の手の甲ではなく、人差し指と中指の間の隙間だった。

ふぅ...

全員が安堵のため息をついた。さっきまで鈴木由美が血を流すことになるかもしれないと思っていたのだ。冗談ではすまない事態だった。

「まじでびっくりした」夏目沙耶香も深いため息をついた。結局のところ彼らは高校生で、そんな血なまぐさい場面は想像するだけでも怖かった。

「馬場絵里菜の度胸がすごすぎる。あの一撃、もし外れてたら？鈴木由美の手が不自由になってたかも」

「そうだよね、怖すぎ」

「馬場絵里菜って大人しいって聞いてたけど、全然違うじゃん。チタン合金より硬いじゃん！」