細田登美子は頷いて言った。「いいわ、この件は田中に任せましょう。去年も彼が担当したわね。」
話している最中に、白いスーツを着た中年の男性が外から入ってきた。男性は細田登美子を見るなり、笑顔を浮かべながら早足で近づいて挨拶した。「やあ、細田社長、お久しぶりです。」
その男性は常という姓で、地方の炭鉱経営者で、細田登美子の古くからの顧客だった。以前、細田登美子がホステスをしていた頃、常社長は来店するたびに彼女を指名していた。
しかし今や細田登美子の立場は違っていた。彼女は今やパラダイスのトップであり、クラブ全体の内外すべてを取り仕切る立場にあった。常社長はもちろん、他のお客様も細田登美子に対して丁重な態度を取らざるを得なかった。
細田登美子は常社長を見て喜色を浮かべ、急いで近寄った。「常社長、本当にお久しぶりですね。どうされました?また白云に出張ですか?」
常社長はそれを聞いて笑いながら頷いた。「出張なんて些細なことです。ただ細田社長にお会いしていなかったので、口実を作ってお会いに来たんですよ!」
細田登美子は常社長と二十回以上も酒を共にしており、彼の人柄をよく理解していた。この人は金持ちの態度を見せず、非常にユーモアがあり、冗談を言うのが好きだが、彼女に対して決して越権的な行為をしたことはなかった。
細田登美子は首を振って笑いながら、常社長を中へ案内しながら言った。「もう、からかわないでください。まずは中でお楽しみください。私は後ほど時間ができたら必ずお酒を注ぎに伺います。」
常社長は頷いて応えた。「そうですね、では待っていますよ。」
常社長の案内を終えたところで、広報部長の霞が小走りでやってきた。霞は嬉しそうな表情で、近づくなり直接言った。「登美子さん、333号室の細田社長が大満貫を開けられました。お酒を注ぎに行かれてはいかがでしょうか。」
これはパラダイスの暗黙のルールで、お客様が大満貫を開けた場合、クラブの総支配人は必ず自ら酒を注ぎに行かなければならなかった。
細田登美子は特に深く考えなかった。パラダイスに来る人々は皆、裕福か身分の高い人々で、大満貫を開けることは珍しくなかった。パラダイスで十二年働いてきた細田登美子にとって、このようなことは既に珍しいことではなかったので、すぐに頷いた。