馬場絵里菜は本能的に顔を上げると、藤井空が気まずそうな表情で自分を見ているのが目に入った。
意外な気持ちがこみ上げてきた。記憶が正しければ、藤井空はずっと自分のことを快く思っていなかったはずだ。
昨夜の出来事で馬場絵里菜に対する認識が変わったのか、藤井空は気まずそうにしながらも、手に持っているものを差し出した。「俺たちはさっき食べたから、お前も食べろよ」
馬場絵里菜は深く考えずに、相手が好意を示してくれたのだから、受け取らない理由はないと思った。
眉を少し上げながら快く受け取り、「ありがとう」と一言添えるのも忘れなかった。
本当に少し腹が減っていたのか、パンは数口で食べ終わった。そのとき、橋本好美が回転ドアから優雅な姿でロビーに入ってきた。
「お母さん、林駆はどう?」馬場依子が真っ先に駆け寄り、開口一番、林駆の状態を心配する声を上げた。