第142章:馬場家の奥様、橋本好美

皆は驚いて、急に顔を上げた。

よく見ると、馬場絵里菜がいた場所には誰もいなくなっていた。

温かい水が馬場絵里菜の滑らかな肌を伝って流れ落ち、飛び込みで体に染みた寒さがようやく和らいでいった。

シャワーの下で、馬場絵里菜は顔を少し上げ、水に打たれながら、乱れた心が徐々に落ち着いていった。

心法で身を守れたとはいえ、先ほどの出来事を思い返すと、馬場絵里菜はまだ少し怖くなった。

幸い、大事には至らなかったが、意識を失ったままの林駆のことを考えると、馬場絵里菜の心は複雑な思いに包まれた。

疲れを洗い流し、体を拭いた馬場絵里菜は、わざわざ持ち出してきた携帯電話に目を向けた。手に取ってみると、水に濡れて使えなくなっていた。

この時代の携帯電話は、どんなに高価でも防水機能はなかった。

ため息をつきながら、真っ黒な画面の携帯電話を見つめ、馬場絵里菜は額に手を当てて悔しがった。白川昼の番号はまだいいとして、この中には古谷始との唯一の連絡先が入っていたのだ。

その時、部屋のドアが外から突然開けられた。

「依子!」

姿が見えるより先に声が届いた。

そして、二人の男性を従えた女性が慌てた様子で部屋に駆け込んでくるのが見えた。

女性は肩まで届く黒髪で、四十歳近くだったが、二十歳の少女のように若々しく手入れが行き届いていた。美しい容姿で、気品も際立っており、たとえ足早に歩いていても、内から滲み出る優雅さは隠しきれなかった。

「お母さん!」

馬場依子は来訪者を見るなり、泣きながら飛びついた。

「私の宝物、心配で死にそうだったわ!」女性は馬場依子をしっかりと抱きしめ、娘と共に涙を流した。

来訪者は他でもない、馬場依子の母親で、馬場長生の妻の橋本好美だった。

「ママに見せて、怪我はない?」

橋本好美は煤けた馬場依子の顔を両手で包み、心配そうに上から下まで確認した。馬場依子は涙目で首を振った。「ママ、大丈夫」

「橋本おばさん……」

鈴木由美もこの時立ち上がって近寄ってきた。橋本好美は鈴木由美を見て心配そうに尋ねた。「由美ちゃんも大丈夫?」

鈴木由美は目を赤くして首を振った。橋本好美はそれを見て安堵の表情を浮かべた。「心配しないで、お父さんもすぐ来るわ」

「子供たち、怖い思いをさせてごめんなさい。みんな無事で本当に良かったわ」