馬場依子は夏目沙耶香が自分に謝罪するとは思っていなかったようで、すぐに首を振り手を振った。「いいえ、いいえ、あなたの言う通りです。この件は早急に解決しなければなりませんね」
馬場依子が本当に気にしていないようだったので、夏目沙耶香は軽く頷いただけで、他には何も言わず、藤井空と手を繋いで立ち去った。
病室のベッドで、林駆がゆっくりと目を開けた。
布団から右手を取り出すと、銀色の万年筆を固く握りしめていた。
万年筆に刻まれた「駆」の文字を指でそっと撫で、林駆は少し口角を上げ、端正な顔に今までにない柔らかな表情を浮かべた。
その頃、馬場絵里菜と白川昼は会社での会議に向かう途中だった。
東海不動産のオフィスは白川昼が自ら選んだもので、彼のマンションの近くにある専門のオフィスビルの中にあった。
馬場絵里菜はオフィスの改装工事前に一度見に行っただけで、会社が正式に稼働してから、これが初めての来社だった。
「この人たちは、全員京都から異動させてきたの?」
車の中で、馬場絵里菜は会社幹部の人事資料に目を通していた。各部門のマネージャーからマーケティング運営の管理層まで、一人一人の資料を丁寧に確認していた。
しかし見れば見るほど驚かされた。これらの人々の経歴は華々しすぎるほどで、全員が世界の名門校を卒業したエリートで、さらにはウォール街出身者までいた。
白川昼は馬場絵里菜を見て、微笑んだ。「全員というわけではありませんが、門主、ご安心ください。この人たちは皆、私の部下です。そして私はあなたの部下ですから、彼らもまたあなたの部下となります」
実は白川昼の本当の身分やプライバシーについて、馬場絵里菜はずっと興味を持っていた。今、彼がこれほど多くの市場人材を容易に動かせることを見て、その好奇心はさらに強まった。
しかし彼女はその場で直接質問することはしなかった。たとえ聞けば白川昼が答えてくれることは分かっていても、馬場絵里菜はそうしたくなかった。
いつか白川昼が自ら話してくれる時が、彼女が知るべき時なのだと。
車がゆっくりと停止し、一行は次々と車を降り、足早にオフィスビルに入った。
エレベーターで17階に直行すると、ドアが開くと同時に東海不動産の受付が目に入った。