第153話:辞めたの、知らなかったの?

会議室を出ると、皆の表情が変わり、前を歩く馬場絵里菜の後ろ姿を見ながら、思わず噂話を始めた。

「この新しい社長はどんなバックグラウンドなのかしら?白川社長までが彼女の言うことを聞くなんて」と細田恵は声を潜めて言った。

松本誇はそれを聞いて首を振った。「さあ、わからないね」

人事部長の菅野波が即座に口を開いた。「社長が言ったでしょう?彼女は東京の人で、第二中学校の生徒だって。気になるなら調べれば分かるんじゃないですか?」

皆は驚いた表情を見せ、慌てて否定した。「そんなつもりはありませんよ!ただ好奇心があるだけです。十四歳の少女が、グループを設立して不動産業に参入しようと考えるなんて。私たちが十四歳の時にはこんなこと分かりませんでしたよ」

彼らは私立探偵ではないので、社長の背景を調査できるわけがない。皆が好奇心を持つのは当然だが、それはただの好奇心に過ぎない。

麻生東も口を開いた。「彼女は十四歳とはいえ、さっきも見たように、不動産業についてよく理解しているようです。私たちよりも深い洞察力を持っているような理念もある。さっきの学区物件に関する先見的な判断なんて、普通の人には思いつかないことですよ」

皆はそれを聞いて頷いた。馬場絵里菜が想定している学区物件の時代が本当に来るかどうかは分からないが、そのような大胆かつ自信に満ちた予測を立てること自体、並の人には考えつかないことだった。

心を落ち着かせると、皆も安心した。彼らは白川昼の部下なのだから、白川社長が社長を信頼しているなら、彼らも何も言うことはない。

皆と食事を終えた頃には夜になっていた。白川昼が馬場絵里菜を家まで送ろうとしたが、馬場絵里菜は考えて言った。「世田谷区のスターライトバーに行きたいです」

この時間に帰っても家には誰もいないだろうし、鍵も無くしたので部屋に入れない。それなら直接バーに行って兄を探そうと思った。

計算してみると、兄に会っていないのは数日になる。最後に会ったのは朝食店の閉店の日だった。

車はゆっくりとバーの向かい側の路肩に停まった。馬場絵里菜はバーの入り口を見上げた。週末だったので、すでに多くの人が集まっていた。

車から降りようとした時、白川昼が包装袋を馬場絵里菜に差し出した。「新しい携帯です」