第172章:完全に抑えきれない

「もう遅いから、帰るわ」馬場絵里菜は白川昼を見上げて微笑み、付け加えた。「マカオの件は手配してね。ゴールデンウィーク前夜に出発しましょう」

白川昼は頷いて言った。「山本に送らせましょうか」

「いいえ、結構です」馬場絵里菜はきっぱりと断り、カバンを手に取りながら、靴を履き替えながら言った。「食べ過ぎたから、少し歩きたいの」

白川昼が何か言う前に、馬場絵里菜はドアを開け、手を振った。「送らないで。じゃあね!」

ドアが閉まると、白川昼はようやく眉をひそめ、門主の様子が少しおかしいと感じていた。

「門主様、何か様子がおかしいようですが」山本陽介も気づいて、白川昼の後ろで呟いた。

白川昼は唇を噛んだ。実は門主がスターライトバーのオーナーの息子のことを調べるように命じた時から、少し違和感を感じていた。しかし、門主の命令には逆らえないし、詳細を尋ねることもできない。

そして先ほどの門主の表情は、表面上は平静を装っているように見えたが、むしろそれが事態の深刻さを物語っていた。

しかし、白川昼は古谷始のようにはいかない。彼は部下であり、門主を尾行するわけにはいかない。

だから今は首を振るしかなく、明らかに門主には他人に知られたくないことがあるようだった。

「ご主人様...」山本陽介は突然、期待に満ちた目で白川昼を見つめた。

白川昼は狐のような目を細めた。「ん?」

「私もマカオに行きたいです」山本陽介は愛らしい表情を浮かべ、瞬きをした。

「振る舞い次第だな」白川昼は眉を上げ、その場を離れた。

白川昼のマンションを出た馬場絵里菜は、歩いて帰らずにすぐに路上でタクシーを拾った。

「師匠、世田谷区のスターライトバーまで」

この怒りを、馬場絵里菜は一週間ずっと抑えていた。しかし、兄の傷と、兄の感情を弄んだあの女のことを思い出すたびに、手が震えるのを抑えられなかった。

自分でも何がどうなっているのか分からなかった。まるで体内で暴力因子が落ち着かなく騒いでいるかのように、誰かを殴りたい、支配したい、でも全くコントロールできない。

この怒りを飲み込めないなら、吐き出すしかない。

白川昼が先ほど言ったように、この田中勇は金曜日と土曜日は基本的にバーにいる。だから馬場絵里菜の頭の中には、ただ一つの考えしかなかった。バーに行って、田中勇を見つけ出すこと!