第178話:これで知り合いになれたかな

馬場絵里菜は井上裕人の手から自分の手を引き抜き、周りの人々が怪物を見るような視線を感じたが、まるで気にも留めず、人々の視線を無視して酒場の出口へと向かった。

見物人たちは彼女を避けるように慌てて道を開けたが、馬場絵里菜が突然立ち止まった。

周囲の人々は息を呑んだ。この'鬼女'がまた暴れ出すと思ったが、馬場絵里菜は金髪の男の傍に戻り、無表情で彼の袖を掴み、まだ状況を把握できていない金髪の男を連れて酒場を後にした。

馬場絵里菜が出て行った瞬間、酒場内の重苦しい空気が一気に消え、この事件と無関係な客たちまでもが思わずため息をついた。

「やべぇ、あの女ヤバすぎだろ」

「手加減なしだな。誰かが止めに入らなかったら、人が死んでたかもしれねぇ」

「度胸あるな。どんなバックグラウンドだ?世田谷区で田中勇に手を出すなんて!」

「え?殴られたのは田中勇?」

「他に誰がいると思ってんだ?」

「知るかよ。あんな状態じゃ実の母親でも分からねぇよ」

一時に議論が沸き起こり、酒場内が騒がしくなった。田中勇の仲間たちは先ほどまで馬場絵里菜の威圧感に動けなかったが、今になって我に返り、救急車を呼ぶ者、警察に通報する者が出てきた。

井上裕人は馬場絵里菜が消えた出口を見つめ、かすかに興味深そうな笑みを浮かべた後、ゆっくりと視線を戻した。

その時、ジーンズに白いニットを着た秀麗な青年が井上裕人の傍に寄り、疑問げな口調で尋ねた。「井上、知り合い?」

この青年は相原佑也と言い、端正な顔立ちで、肌は白磁のように白く、目は朗星のように輝いていた。体格は井上裕人より一回り細身だった。

彼は物静かで上品な外見とは裏腹に、東京の有名な名門の御曹司だった。相原家は百年の歴史を持つ名家で、夏目家、林家、馬場家と共に白云四大家族と呼ばれていた。

四大家族の名は本州に轟き、全国に事業を展開し、時価総額はいずれも百億円を超えていた。アジアに名を轟かせる井上財閥には及ばないものの、東京では誰もが知る名門であった。

井上裕人は何も答えなかった。

以前の二度の出会いは知り合いとは言えないが、今回でようやく知り合いになったと言えるだろうか?

「行こうぜ、お祭りは終わったみたいだ」井上裕人は淡々とした口調で言い、軽くストレッチをした。

……