「わざわざ探しに戻ったんじゃないの?」
「もしかして、あの日は煙が多すぎて見つからなかったのかしら?」
そう考えると、馬場依子は心が落ち着き、理解を示す笑みを浮かべた。「そうね、あの時は火事が激しくて、別荘中が煙だらけだったから、見つからなかったのも分かるわ」
「大丈夫よ、なくしたものはしょうがないわ。今度また新しいのをプレゼントするわ」馬場依子はそう言いながら、林駆が持っているシルバーグレーの万年筆に目を向けた。「まだKUNITOMOの万年筆が好きなの?」
馬場依子の声は優しく穏やかだったが、この時の林駆は心が乱れており、馬場依子の声がうるさく感じられた。
眉間にしわを寄せ、林駆はいらだった口調で言った。「少し静かにできない?」
馬場依子は「……」
認めたくなくても、この時の林駆の抑えた怒りは明らかだった。馬場依子は薄い唇を固く結び、目に悲しみを浮かべ、可哀想そうな様子で林駆を見つめた。
しかし林駆は彼女を見ようともせず、馬場依子は一人で悲しみに暮れた後、結局それを押し殺すしかなかった。
林駆はバカではない。この一週間、彼が学校にいない間に、彼と馬場依子の噂が広まり、まるで事実であるかのように学校中の知るところとなっていた。
彼は不在だったため事情が分からなかったが、当事者のもう一人である馬場依子は説明して真相を明らかにしようとしなかったのだろうか?
事態がここまで発展するのを放置し、もし馬場依子に避ける意思があるなら、彼を避けて冷たく接するはずだ。
しかし現状を見ると、馬場依子は全く影響を受けていないどころか、むしろ彼に対して異常なほどの関心と親密さを示している。
林駆にとって、馬場依子は転校してきたばかりのクラスメートに過ぎず、接触時間が短すぎて友達とも呼べない関係だった。なのに、なぜ彼女は彼にこれほど熱心に近づこうとするのか?
誰もが子供ではない。十四、五歳という年齢はホルモンが分泌される時期で、誰もが感情に敏感になっている。
馬場依子の彼への思いは、すでに顔に書かれていた。
しかし林駆は今、馬場依子の考えや行動に気を配る余裕がなかった。彼の心は完全に馬場絵里菜のことで占められており、しかもその思いは矛盾に満ちていた。
彼は馬場絵里菜がこの件で悲しみ傷つくことを望みながら、同時にそれを恐れてもいた。