鈴木夕は細田繁の木頭がわからないかもしれないと思い、思い切って口を開いた。「あなたのお姉さんは、あなたが想像しているよりもお金持ちよ」
「ふん!」細田繁は気にも留めずに笑い、鈴木夕を見ながら言った。「嫁さん、考えすぎだよ。姉貴はナイトクラブで何年も働いてて、朝食屋も持ってるけど、二人の子供を育てなきゃいけないんだ。もし金持ちなら、甥っ子が学校を辞めることになんてならなかったはずだろ?」
そう言いながら、細田繁は一息つき、真面目な表情で続けた。「それに、お前は姉貴のことを知らないんだ。ナイトクラブで酒の相手をしてるけど、彼女の性格からすれば、それだけでも限界だろう。昨日姉貴を見ただろう?きれいだったろ?30代40代には見えないだろ?彼女が働いてる場所は東京でもトップクラスのクラブなんだ。もし金を騙し取ろうと思えば簡単だろうけど、姉貴にはそんなことはできないんだ」
細田繁はこう断言した。実の姉妹なのだから、たとえ親密な関係でなくても、幼い頃から一緒に育ってきて、お互いをよく知っているのだ。
しかし鈴木夕は信じられない様子で、細田繁を見つめながら言った。「お姉さんにお金がないって言うけど、お金がないのに足立区のあなたの二つのボロ家を二千万円で買えるの?」
「それは別の話だ!」細田繁は即座に答えた。「姉貴はお袋に追い詰められて仕方なかったんだ。俺が借りた金を返さないんじゃないかって心配で、だから家を売るって話になったんだ」
「あの二つの家なんて、せいぜい千万円の価値しかないのに、なんで二千万円も出すの?」鈴木夕は更に問いただした。
「へへへ」細田繁は間抜けな笑いを浮かべて言った。「それは俺にもわからないんだ」
自分の家は小さく、兄の家は少し大きいものの、鈴木夕の言う通り、二つの家を合わせても千万円が限度だった。だから細田登美子が二千万円と言った時、すぐに飛びついて承諾したのだ。
後になって理由を考えてみたが、結局わからずじまい。どちらにしても自分が得をしたのだから、それ以上考えるのをやめた。