鈴木夕は、この件は手間取るだろうと思っていた。結局のところ、夫がどんな人間かは彼女が一番よく分かっていたし、何もできない人間に仕事を手配するのは難しいはずだった。
だからこそ、この件は簡単ではないと考え、たくさんのお金を使って贈り物を買った。そうすれば、話を切り出すときにも少しは自信が持てると思ったのだ。
しかし意外にも、細田仲男はすぐに承諾し、細田繁が一生懸命働けば昇進のチャンスも与えると言ってくれた。
鈴木夕は思わず、実の兄というのはやはり頼りになるものだと感心した。
細田繁はそれを聞いて、得意げに口角を上げながら自慢げに言った。「当たり前さ。兄貴は大物経営者だからな。普段は威厳を保つために誰に対しても堅苦しい態度を取ってるけど、俺に対してだけは違うんだ!俺たちが結婚したときも、兄貴は二つ返事で足立区の家の権利書をくれたんだぞ。あの家は六、七万元の価値があるんだぜ!」
鈴木夕は細田繁の言葉にもっともだと思い、軽くうなずいてから続けた。「この大家族で頼れるのは義兄だけよね。義兄の助けがなかったら、あなたの仕事はどうなっていたことか。あなたの二人の姉さんたちは頼りにならないもの」
「だから俺は兄貴を尊敬してるんだよ!」細田繁は鈴木夕の言葉に便乗して言った。
……
一方、細田繁と鈴木夕が帰った後、伊藤春の顔から笑みが消えた。
リビングを片付けながら、細田仲男に向かって言った。「繁は何もできないし、人付き合いも下手よ。本当に会社に入れたら、あなたとの関係を利用して面倒ばかり起こすんじゃないかしら」
細田仲男は中華タバコに火をつけ、深く一服してから淡々と言った。「まずは内装工事チームで力仕事をさせてみよう。続けられるかどうか様子を見てからだ」
結局のところ、細田仲男は承諾はしたものの、弟に対して期待は全くなかった。
すぐに承諾した理由は、今断れば鈴木夕が必ず母親のところへ行くことを知っていたからだ。そうなれば母親からも頼まれることになる。
どうせ最終的には承諾せざるを得ない事なら、今承諾して相手に恩を売っておいた方がいい。
結局は細田仲男の実の弟なので、伊藤春は分別のある人間として、それ以上は何も言わなかった。
「萌を連れて田の浦に行ったのか?」細田仲男が突然尋ねた。