昼食後、馬場絵里菜は一人で学校の裏庭の芝生に日向ぼっこに行った。
五月の東京はすでに暑くなり始めていた。午後の暖かい日差しが大地に降り注ぎ、その中にいる人は心地よさを感じていた。馬場絵里菜は目を細め、先ほどの井上裕人のことで感じた憂鬱な気持ちも、すぐに半分ほど消えていった。
実際、後から考えてみれば、約束したのは自分だった。契約書を直接自分の手に届けるように言ったのも自分だ。井上裕人は確かにからかっているようだったが、結局のところ、二人の約束を果たしただけだった。
水雲亭は彼女が勝ち取ったものだ。もし他の場所で契約書を受け取っていたら、馬場絵里菜はただ喜んでいただけだっただろう。
しかし、学校という場所だったからこそ問題だった。やっと噂話から抜け出せたと思ったのに、今回の井上裕人の一件で、また皆の話題の的になることは間違いない。これが彼女が怒った理由だった。もう注目の的になりたくなかったのだ。第二中学校の生徒たちのことは彼女がよく知っていた。噂を広める能力はゴールデンタイムのドラマ脚本家並みで、今回の主役は井上裕人という、イケメンすぎる存在だ。若くてハンサムで金持ちという、思春期の女子の全ての妄想を満たす存在だったため、馬場絵里菜は想像するだけで、今回の噂はより一層激しく広がることが分かっていた。
しかし、すでに起きてしまったことで、これから起こるであろう'災難'は全て予測できた。
幸い、彼女の魂は既に大人のものだった。このような事態に辟易していても、実際に起きた時には、馬場絵里菜はそれほど大きな影響を受けないだろう。
これは潔白な者は自ずと明らかになるというダチョウのような考え方ではなく、単に馬場絵里菜の内面が強かったからだ。根も葉もない話は、彼女にとって実質的な傷にはならなかった。
しばらく日向ぼっこをした後、馬場絵里菜は横に置いてあった書類袋を手に取り、契約書を取り出して読み始めた。
先ほどは井上裕人に早く消えてほしいという気持ちだけで、見もせずにサインしてしまった。
しかし読めば読むほど、馬場絵里菜の眉間にしわが寄っていった。井上裕人が契約書で彼女を騙そうとしているわけではなく、むしろ逆に、この譲渡契約書は簡潔明瞭で、余計な内容は一切なく、陰謀めいたところは微塵もなかった。