第305話:君は思う存分殴れ、金は俺が出す

保護者が来たからには、佐藤平も一人で座っているわけにはいかなくなった。そこで井上裕人と田中海に声をかけた。「双方の保護者がいらっしゃったので、みなさん座って、落ち着いて問題を解決しましょう!」

田中海はその言葉を聞いて、井上裕人を一瞥し、不機嫌そうに冷ややかに鼻を鳴らすと、事務室のソファに腰を下ろした。

井上裕人の顔には意味ありげな笑みが浮かび、誰も彼の今の感情を読み取ることはできなかった。

全員が着席すると、田中海は先手を打とうと、井上裕人を見つめながら言った。「私の娘が彼女に殴られた。学校に退学処分を要求する!」

口を開くなり、傲慢な態度で、話し合いの余地を全く残さない口調で、明らかに今日は馬場絵里菜を退学させなければ収まらない様子だった。

田中奈々と金谷希は田中海の隣に座っていたが、この時には既に田中海の言葉は耳に入らず、馬場絵里菜との確執も忘れ、二人の目は井上裕人に釘付けになっていて、他のことは全く気にしていなかった。