馬場絵里菜はずっと一言も発しなかった。佐藤平はそれを見て心の中で頷いた。
間違いを犯したのなら、このように素直に認め、言い訳せず、泣き叫ばず、弱音も吐かず、気骨があり責任感がある態度こそ正しい!
田中海と田中奈々の親子と比べると、心の天秤は既に馬場絵里菜の方へと傾いていた。
こうなると、佐藤平はますますこのような過ちを認める生徒を支援したくなった!
しかし彼が口を開く前に、事務室のドアがノックされた。
佐藤平は言葉を中断し、「どうぞ!」と声をかけた。
ドアが開くと、井上裕人がビーチサンダルにショートパンツ、白いTシャツにサングラスという出で立ちで現れた!
馬場絵里菜はその瞬間、ついに表情が明らかに変化し、目を大きく見開いて、まるで力を入れすぎて眼球が飛び出しそうなほどだった。
なぜ彼が来たの?
いや、何しに来たの?
違う、どうしてここに?
馬場絵里菜の頭上には大きな疑問符が浮かび、井上裕人の突然の出現に対する驚きの色が顔全体に表れていた。
井上裕人は彼女の表情を目に収め、無意識のうちに達成感の喜びが目の奥に漂い、まるで馬場絵里菜の表情が大げさであればあるほど、彼は嬉しくなるようだった。
ふん、俺がお前を助けに来てやったんだぞ、感動してるか?
そう考えながら、井上裕人は威張った様子で、ゆらゆらと事務室に入っていった!
田中奈々と金谷希も井上裕人だと気づいた。これは昼食時に食堂で話題を呼んだイケメンじゃないか?
二人は井上裕人の端正な顔立ちを見つめ、一瞬呆然として、目が離せなくなった。
昼間は遠くからしか見えなかったけど、こんなに近くで見ると、もっとかっこいい!
死ぬほどかっこいい!
あぁぁぁぁぁぁぁ!心の中の乙女心が狂ったように叫んでいた。
馬場絵里菜は我に返ると驚きの表情を収めたものの、両目は井上裕人を見つめ続け、心の中で彼が何を企んでいるのか推測していた。
井上裕人は皆の視線を浴びながら馬場絵里菜の傍らまで歩み寄り、周りの目の前で、軽く身を屈めて彼女の耳元で、二人だけに聞こえる声で囁いた。「僕らには縁があるって言ったでしょう?なんて偶然だね、また会えたね!」
偶然なんかじゃないでしょ!
馬場絵里菜は表情を抑えながらも、心の中で井上裕人を罵倒していた。今日は何かの祟りか、どこにでも彼がいるなんて。