ただ、彼は人々に冷たい印象を与えすぎていて、女子たちは狼のように彼を見つめているものの、誰も積極的に話しかける勇気がなかった。
「林駆の地位が危うくなってきたね!」
夏目沙耶香は月島涼を一瞥し、思わず首を振って嘆き、林駆のことを惜しむような様子だった。
「ふん、私から見れば普通だと思うけど?あなたたちが言うほど大したことないでしょう?」藤井空は窓際に寄りかかり、どうでもいいような態度を見せたが、その口調は酸っぱそうだった。
「あなたに何がわかるの!」夏目沙耶香は藤井空を睨みつけて言った。「確かに林駆も負けてないけど、二人の雰囲気は正反対だから、結局どちらのファンが多いかってことよ。」
「明らかに、林駆は一年以上みんなが見慣れた顔だから、イケメンでも時間が経てば慣れちゃうのよ!でも新入生は違う!学校にこういうタイプの人いた?珍しいものには価値があるってことで、私は新入生に一票!」
馬場絵里菜は横で聞きながら軽く笑って言った。「お嬢さん、少し慎みなさいよ。あなたには彼氏がいるでしょう!」
藤井空はそれを聞いて胸を張り、逞しい胸筋がより目立った。「そうだよ、俺だってあいつに負けてないだろ?」
夏目沙耶香は即座に大きな白眼を向けた。「やめときなさいよ。ルックスで言えば、林駆>高遠晴>あなたよ。」
その一言で、藤井空は何も言えなくなった。
馬場絵里菜は二人の日常的な言い合いを見て、苦笑するしかなかった。
実際、藤井空はとてもイケメンで、体つきも良く、健康的な小麦色の肌で、男子の中で一番背が高かった。決して夏目沙耶香が言うほど悪くはなかった。
二人の日常的なコミュニケーションパターンはこんな感じで、沙耶香は一言言うたびに藤井空をからかわずにはいられなかった。
転校生の月島涼のおかげで、馬場絵里菜はこの日珍しくリラックスして過ごせた。クラスメートたちの注目がこの新入生に集中し、一時的に馬場絵里菜のことを忘れていたからだ。
これがこの年頃の子供たちの特徴で、新しい人や出来事は、すぐに古いものを覆い隠してしまうのだ。
……
午後の下校時、馬場絵里菜は直接家に帰ると、家の玄関が開いているのに気付いた。
庭に入ると、馬場輝が家から水の入ったバケツを持って出てくるのが見えた。馬場絵里菜は一瞬驚いた後、声をかけた。「お兄ちゃん、なんで家にいるの?」