たった一言で、クラスの女子たちの女性ホルモンが一気に刺激された。
「声がすごくいい!」
「名前もすてき!」
「雰囲気が独特で、心臓が飛び出しそう」
「目が深くて、見つめられないわ!」
女子たちは興奮しながらも、声が大きくならないように気をつけ、教室にはひそひそと話す声が響いた。
ただ馬場絵里菜だけは、月島涼の視線を感じた時、臆することなく顔を上げて視線を合わせた。しかし月島涼は軽く一瞥しただけで、自然に視線を外した。
馬場絵里菜は眉間を微かにしかめた。月島涼という少年は自分と同じくらいの年齢に見えたが、彼の全体的な雰囲気は足立区の人間とは全く違っていた。
そして今朝、後ろからの気配は無害に感じられたものの、馬場絵里菜は今、警戒せざるを得なかった。この少年が自分を追ってきた目的が他にあるのかもしれないと思ったが、それは分からなかった。
しかも今は自分のクラスメートになっている。これらすべてが意図的な感じがして、決して偶然とは思えなかった。
「じゃあ、後ろの空いている席に座ってください」
菅野將は月島涼の自己紹介が名前を言っただけだったことに気づき、慌てて教室の一番隅にある唯一の空席を指さして言った。
しかし、月島涼は突然静かな声で言った。「視力があまり良くないので、最前列に座りたいのですが」
その口調には相手の意見を求める様子は全くなく、完全に自分が最前列に座ることを通告しているだけだった。
「先生!」そのとき、林駆が突然手を挙げた。「じゃあ、僕の席を譲りますよ。僕が後ろに行きます!」
林駆はまるで馬場依子の側から逃げ出す機会を見つけたかのように、話しながらすでに机の上の物を一気にカバンに詰め込み、先生の承諾も待たずに教室の後ろへと向かった。
馬場絵里菜たちは彼が逃げ出すような様子を見て、心の中で思わず笑ってしまった。
一方、馬場依子は林駆の背中に向かって口を開きかけたが、言いよどんでしまった。二人はもう長い間話をしていなかった。今の林駆の行動を見れば、馬場依子が馬鹿でなければ、彼が自分から離れたがっているのが分かるはずだった。馬場依子は賢い子で、結局言葉を飲み込んだ。
月島涼も遠慮することなく、林駆が去るとすぐに馬場依子の隣に座った。