馬場絵里菜は言葉を失い、林駆の方を振り向いたが、林駆は本を読むことに夢中で、何事もなかったかのような様子だった。
仕方なく笑みを浮かべながら、馬場絵里菜は席に戻って座った。この「愛情たっぷりの」朝食を返すことはしなかった。朝食を抜いていたのだから仕方ない。
この林駆のタイミングの良さといったら!
沙耶香はその様子を見て、彼女の側に寄り添い、面白そうな表情で言った。「林駆がついに動き出したみたいね!」
牛乳を飲んでいた馬場絵里菜は、眉をひそめて沙耶香を見た。「何が動き出したって?」
「あなたを追いかけることよ!」沙耶香は眉を上げた。「彼があなたのことを好きなの、知ってるでしょ!」
馬場絵里菜はそれを聞いて、大きく目を回した。「もう彼とその件について話したわ。私たち、無理なの」
沙耶香は気にする様子もなく口を尖らせた。「それはあなたの考えでしょ。林駆が諦めるとは限らないわ。彼の気持ちは固いもの。嵐のような猛アタックを覚悟しておきなさい!」
「ぷっ……」
沙耶香の言葉遣いを聞いて、馬場絵里菜は思わず牛乳を吹き出してしまった。
嵐だなんて、ドラマでもあるまいし。
沙耶香のゴシップ話は無視して、馬場絵里菜は急いで牛乳とサンドイッチを平らげ、授業の始まりを待って本を取り出した。
林駆は一見何事もないように本を読んでいるように見えたが、実際はただの見せかけで、チラチラと横目で馬場絵里菜を見ていた。自分が用意した朝食を彼女が食べるのを見て、満足げな笑みを浮かべた。
すぐに授業開始のチャイムが鳴り、英語の鈴木先生が教科書を抱えて教室に入ってきた。
しかし、生徒たちが起立して挨拶する前に、担任の菅野將が教室の入り口に現れた。
「鈴木先生、2分ほど時間を頂戴できますか。転校生が来ているんです」と菅野先生が言った。
鈴木先生は頷き、菅野先生が教壇に上がった。「えーと……今日、新しい転校生が来ました。みんなで拍手で歓迎しましょう」
生徒たちは不思議そうな顔をしながら、拍手をしつつ顔を見合わせた。
1組に直接転入?
彼らは何百人もの生徒の中から血のにじむような努力で1組に入ったというのに!
みんなが疑問に思っているところへ、黒い影が入り口からゆっくりと入ってきた。
「きゃー!かっこいい!」
「すごい、クールすぎる!」
「まあ、スタイリッシュ!」