第347章：黒衣の少年

その時、馬場絵里菜は指を翻し、心法を使って空中の四人を地面に叩きつけようとしていた。

しかし突然、目の前で何かが光り、黒い影が一瞬で通り過ぎた。

その動きは極めて速く、馬場絵里菜には来た人が男か女かも見分けられないほどで、ただ一筋の残像が視界に残るだけだった。

「あっ！」

「うっ……」

「ぎゃっ！」

「くっ……」

次の瞬間、四つの悲鳴が突然響き渡り、その後「どすん」という音が聞こえ、空中に飛び上がっていた四人の大男が一瞬で地面に叩きつけられた。

埃が舞い上がった。

四人の大男は重傷を負い、地面に倒れたまま呻き声を上げ、両手で股間を押さえ、顔には痛みで冷や汗が流れていた。

残りの四人の大男も動きを止め、仲間の傷を見て股間が締まる思いで、本能的に両足を閉じた。

その時、一人の少年が黒い服と黒いズボンを着て、右肩にカバンを背負い、すらりとした姿で両者の間に立っていた。その身から放たれる気配は鬼魅のように鋭く、人を震え上がらせる殺気を漂わせていた。

少年は馬場絵里菜に背を向けて立っており、彼女には彼の顔が見えなかった。ただ、彼が少し俯いて、前髪が冷たい眼差しを隠し、唇が僅かに動いて、氷のように冷たく骨まで染みる声で一言：「消えろ」と吐き出すのが見えた。

その声は命を刈り取る羅刹のように無情で、この数人の大男が一秒でも逃げ遅れれば、彼らの命を奪うかのようだった。

少年の威圧的な気迫に押され、怪我をしていない四人の大男はすぐに倒れている四人の仲間を助け起こし、八人は這うようにしてワゴン車まで逃げ戻り、方向転換する暇もなく、バックで走り去った。

数秒後、この路地には馬場絵里菜と少年の二人だけが残された。

全てが突然起こり、馬場絵里菜も完全にその場で呆然としていた。

何が起きたのか全く分からなかった。相手の動きがあまりにも速すぎて、肉眼では捉えられないほどだった。

先ほど背後に感じた違和感、自分の後ろを付いてきていたのに威圧感のなかった気配、あれは彼だったのだろうか？

馬場絵里菜は心に疑問を抱きながら、お礼を言おうとしたが、口を開く前に、少年は振り返りもせずに早足で去っていった。彼女に正面の顔を見せることすらなかった！

まるで瞬きをする間に、人影は消えてしまった。

馬場絵里菜：「……」

何なんだ？