第376章：もちろん嘘よ

鈴木夕は顔を上げ、細田繁をしばらく見つめてから、ゆっくりと口を開いた。「あなた、お姉さんに騙されたかもしれないわ！」

えっ？

細田繁は頭の中が疑問符だらけになり、思わず笑い出した。「冗談言わないでよ。姉さんのことは分かってるよ。人を騙すような人じゃないって」

「それに二つの家を二千万円で買えたんだから、明らかに得したじゃない！」

細田繁は心の中で、姉の細田登美子のことをよく理解していた。優しすぎるくらいの人だから、この何年も何か困ったことがあれば、まず姉のことを思い浮かべていた。

実際、細田繁の考えは間違っていなかった。二千万円は確かに細田登美子が出したものだが、この件の仕掛け人は彼女ではなく、馬場絵里菜だった。

夫がそう言うのを聞いて、鈴木夕は軽蔑するような冷笑を浮かべ、冷たい声で言った。「じゃあ、足立区が再開発されることになったらどうする？」

その一言で、細田繁の笑顔は凍りついた。

しばらくして、彼は目を見開いて尋ねた。「何だって？再開発？足立区の再開発？」

鈴木夕はその場で目を回し、うなずきながら言った。「再開発よ。今年中に始まるの」

「前から、お姉さんが二千万円であなたの家を買うって話が腑に落ちなかったでしょう。今、再開発の話を聞いて、悪く考えるのも無理はないわ。これが一番合理的な説明だもの！」と鈴木夕は言った。

細田繁はもともと主体性のない人間で、再開発の話に刺激され、鈴木夕に誘導されて、瞬く間に自分は細田登美子に騙されたのだと思い込んでしまった。

あるいは、豊富な立ち退き料が惜しくて、自分をそう思い込ませているのかもしれない。

彼の心の中では、お金が間違いなく最も重要で、自分を納得させる理由が必要だったのだ！

「じゃあどうすればいいんだ？」細田繁には考えがなく、立ち退き料も欲しかったが、家はもう姉に売ってしまい、権利書も姉の手にあるので、惜しんでも仕方がなかった！

鈴木夕は考えた。この件で直接姉に掛け合っても理は立たない。結局、お金を払って権利書を受け取ったのだから、法律的には全て合法で、あの二つの家は今や細田登美子のものだった。

しかし、何千万円もの立ち退き料をあきらめるのは納得がいかない。もし細田繁というこの木頭が早めに気付いていれば、あの二つの家は彼らのものになっていたはずだ。