時間が一分一秒と過ぎていく中、井上雪絵は期待を胸に抱いていたため、少しも辛く感じなかった。
店内で、店長は出来上がった二つのケーキをカウンター後ろの冷蔵ケースに入れ、店員に指示した。「細田さん、このケーキは同じもので、グリーンアップルの十二インチです。男性が取りに来たら左側を、女性が来たら右側を渡してください。」
「はい、店長。」
数時間があっという間に過ぎ、五時半、伊藤春のアウディがケーキ店の外に現れた。
車のドアが開き、降りてきたのは細田芝子だった。彼女は車から降りながら、運転席の伊藤春に向かって言った。「お姉さん、ちょっと待っていてください!」
実は、馬場輝は教習所のインストラクターと金曜日の午後四時間の練習を約束していたため、ケーキを取りに行く件を細田芝子に頼んでいたのだ。
ちょうど細田芝子は仕事帰りにこのケーキ店の前を通るので、立ち寄ることにした。
レシートにはケーキの種類しか書かれておらず、具体的な名前は記載されていなかった。店員は女性が取りに来たのを見て、右側のケーキを細田芝子に渡した。「お気をつけてお持ち帰りください。今晩中に食べきるのがベストです。冷蔵庫がない場合は、一晩置くことはできません。」
細田芝子は笑顔で応じ、ケーキを持って出て行った。
店の外の車の中にいた井上雪絵は、この一部始終を全く知らなかった。
時計の針が六時を指す頃、井上雪絵がまだ帰る様子を見せないため、菅野波は思わず諭すように言った。「お嬢様、もう遅いので帰りましょう。今日は裕人様のお誕生日です。」
「波おじさん、何時?」井上雪絵は元気のない様子で尋ねた。
「六時です!」
井上雪絵の目に失望の色が浮かんだ。気づかないうちに四時間も待っていたのだった。
お兄さんには会えなかったが、確実に言えることは、お兄さんは来なかったということだ。もし来ていたら、必ず一目で分かったはずだから。
井上雪絵が動く気配を見せないので、菅野波は軽くため息をつきながら言った。「ケーキを取ってきますので、その後帰りましょう。」
井上雪絵は興味を失くした様子で、ぼんやりと頷いた。
……