豊田拓海が夏目沙耶香を新田愛美の会社に連れて行かなかったのは、きっと彼なりの考えがあったのだろう。それは自分の会社とは関係のないことだ。
自分も豊田拓海と正々堂々と条件や将来沙耶香に提供できるリソースについて話し合い、裏で小細工をしたわけではない。すべては公平な競争だ。
そう考えて、馬場絵里菜は微笑んで、さらりと言った。「夏目沙耶香は私たちの会社も必ず獲得したいと考えています。お互いを尊重し、公平に競争して、最終的な決定権は夏目沙耶香に委ねる。それでいいじゃないですか?」
新田愛美は表情を変えず、肩をすくめて言った。「あなたの言いたいことはわかります。今日来たのは誰かを脅すつもりはなく、ただ私の言葉を理解してほしいだけです。私の提示するどんな条件でも受け入れる用意があります!」
馬場絵里菜が口を開く前に、新田愛美は続けて言った。「夏目沙耶香には無限の可能性があるのは確かですが、彼女はまだ新人です。貴社も設立間もない新しい会社です。新人と新会社が大きな波を起こすには、どれだけの努力が必要か想像してみてください。」
新田愛美は身を乗り出し、人を魅了する瞳で馬場絵里菜を見つめた。「夏目沙耶香を私に譲ってくれれば、私があなたの会社の映画を無償で出演しましょう。どうですか?」
新田愛美が自社の映画に自ら出演を申し出るというのは、非常に魅力的な提案だった。
周知の通り、新田愛美の現在の価値は絶大で、たとえ製作会社が高額な出演料を提示しても、彼女を起用できるとは限らない。
新田愛美は脚本に対して常に厳しい目を持っている。
沙耶香が彼女の心の中でこれほどの重みを持っているとは思わなかった。このような条件まで提示するなんて。
しかし……
馬場絵里菜は首を振り、頑なな態度を示した。「私は長期的な発展を重視しています。夏目沙耶香は必ず映画界のスターになる、それはあなたもよくご存じのはずです。」
「あなたが彼女のためにここまで譲歩するということは、むしろ彼女の価値をより一層証明しているようなものです。」
新田愛美は、この若い馬場絵里菜が見かけによらず、こんなにも揺るぎない態度を示し、自分の威圧的な態度にも全く動じないことに驚いた。
もう駆け引きをしている時間はない。どうやら……