夜、馬場長生は重たい足取りで家に入った。
昼間の出来事があり、馬場長生は会社に行く気にもならず、鈴木強のところへ行って夜まで過ごした。
ドアの開く音を聞いて、橋本好美が真っ先に出迎えた。「お帰りなさい!」
一目見て、橋本好美は馬場長生の頬の腫れと口角の傷跡に気付いた。
午後に氷で冷やして腫れはだいぶ引いていたものの、まだはっきりと分かる状態だった。
驚いた橋本好美は急いで前に進み出て、心配そうに尋ねた。「あなた、顔どうしたの?誰かと喧嘩でもしたの?」
その声には驚きが隠せなかった。結婚して何年も経つが、馬場長生が人と手を出すような人間ではないことを知っていたからだ。
馬場長生は目の奥の感情を隠し、橋本好美を安心させようと笑顔を見せたが、それが口角の傷を刺激してしまい、痛みで思わず低く唸った。