第572話:この面子は潰せない

中川彰は人を困らせるような人ではなかったので、山田燕が顔を下げて謝罪してきたからには、当然相手の面子を立ててやるつもりだった。

「山田君が是非をわきまえているのは何よりだ」中川彰はゆっくりと口を開き、忘れずに注意も促した。「君の振華の者たちが我が龍栄に喧嘩を売ってくるのも、これが初めてではない。私は後輩たちのことは大目に見るが、師匠として厳しく指導してもらいたい」

「もちろんです。中川さん、ご安心ください。帰ったら必ず厳しく指導します」山田燕は中川彰の言葉に乗じて答え、賢い目を光らせながら続けた。「それで、今日のことは水に流していただけませんか?私たちは結局隣同士なのですから、こんな誤解で仲を損ねたくありません。もう二度と蒸し返さないことにしましょう」

山田燕の言葉の意図は明らかで、彼らだけでなく、他人にも今回の件を話さないでほしいという暗示だった。