井上雪絵は慌てて表情を正し、甘えるように井上裕人を睨みつけた。「話題を変えないで!大事な話があるの!」
井上裕人は眉を上げ、端正な顔に笑みを浮かべた。「大事な話?何だい?」
「第二中学校に通いたいの」と井上雪絵は言った。
第二中学校!
この学校は井上裕人にとって非常に馴染みのある場所だった。
しかし井上裕人は深く考えず、ただ興味深そうに尋ねた。「なぜ突然第二中学校に決めたの?」
「絵里菜が第二中学校に通ってるからよ。私たち友達になったって言ったでしょ!それに達也も第二中学校だから、私も行きたいの!」
井上雪絵は何気なく説明したが、その言葉に井上裕人の表情が一瞬凍りついた。
絵里菜?
第二中学校?
最初は絵里菜という名前を聞いただけでは特に何も思わなかったが、今度は第二中学校というキーワードが加わり、井上裕人は考えずにはいられなくなった。
あの子の怒った顔を思い出すと、井上裕人の目に思わず笑みが浮かんだ。
妹を見つめながら尋ねた。「その絵里菜って子の苗字は知ってる?」
「馬場よ!」と井上雪絵は即答した。
輝お兄ちゃんが馬場だから、妹も当然馬場でしょ!
馬場絵里菜、馬場絵里菜、井上雪絵は綺麗な目をパチパチさせた。「馬場絵里菜って名前、すごく素敵ね」
輝お兄ちゃんの名前と同じくらい素敵。
井上裕人は馬場絵里菜という名前を聞いて、意味深な表情を浮かべ、目の奥に感情の波が渦巻いたが、すぐに抑え込んだ。
表情を変えずに頷いた。
井上雪絵も何か気づいたようで、眉を少し寄せた。「お兄ちゃん、この人知ってるの?」
「知らないよ!」と井上裕人はきっぱりと否定した。
「そう」
井上雪絵は口を尖らせた。考えすぎだったのかもしれない。
「第二中学校に行きたいなら行けばいい。後で手配しておくよ」と井上裕人は言った。
その言葉が終わるや否や、ポケットの携帯電話が突然鳴り出した。
取り出して見ると、井上裕人の表情が一瞬こわばった。彼は井上雪絵に向かって携帯を軽く振って見せた。「ちょっと電話に出るよ」
立ち上がり、井上裕人は窓際まで歩いてから通話ボタンを押した。
電話が繋がった瞬間、井上裕人の雰囲気は一変した。先ほどまでの妹を溺愛する兄の姿は一瞬にして消え失せ、代わりに冷厳さと殺気が漂っていた。