第594章:社長の母

細田登美子は言葉を聞いて少し戸惑った表情を見せ、数秒後になってようやく理解して頷き、白川飛鳥に微笑みかけた。「そうだったんですね。私自身も知らなかったのですから、あなたたちを責めるわけがありませんよ」

彼女はさっきまで不思議に思っていた。なぜ先ほどの二人の貴婦人はカードの登録がたった2分で済んだのに、自分たちはこんなに長く待たされているのか。実は絵里菜が他の人とは違う特別な会員カードを作っていたからだったのだ。

白川飛鳥はそれを聞くと、フロントに向かって主任に言った。「谷口さん、VIPの会員カードを頂戴」

相手はすぐにカードを渡しながら、小声で尋ねた。「白川部長、この方は?」

白川飛鳥は小声で答えた。「社長のお母様です」

一同:「……」

その瞬間、皆が納得したような表情を浮かべた。

なるほど、社長のお母様だったのか!

フロントの数人は急いで細田登美子をもう一度よく見つめ、心道この人のことはしっかり覚えておかなければ、今度何か問題が起きたら大変だと。

白川飛鳥が細田登美子たちをクラブの中へ案内すると、一人が我慢できずに小声で言った。「社長のお母様、すごくお若く見えますね。私より数歳上くらいにしか見えません」

もう一人は少し困った表情を見せ、しばらく迷った末にようやく不思議そうに口を開いた。「確か水雲亭の社長って、おじいさんだったはずでは?」

「プッ……」主任はそれを聞いて思わず笑い出し、困惑している同僚を見ながら笑って言った。「あなた、まだ前世紀に生きているの?水雲亭のオーナーが変わったことも知らないの?」

その人は「えっ」と声を上げ、首を振った。

別の一人が白目を向けながら言った。「お姉さん、クラブの外のロゴだって百年前に変わってるのに、見てなかったの?」

「じゃあ、今の水雲亭はもう井上家の企業じゃないってこと?社長も変わったの?」

主任は頷いて言った。「それに白川社長から聞いた話では、新しい社長はすごく若くて、まだ二十歳にもならないそうです」

二人は目を丸くして口を開け、そして同時に声を上げた。「二十歳未満?」

だから社長のお母様があんなにお若く見えるわけだ。

一方、細田登美子たちは水雲亭の内装の豪華さに圧倒され、どんな表情を見せればいいのか分からないほどだった。