第591章:私たちの街で一番のクラブ

「お前な、登美子との兄妹の絆を利用して、会社の面倒を見てもらおうと思うなら、兄貴面を少し下げて、登美子ともっと親しくなって、お互いの関係を改善していかないとな」

家の中で男尊女卑の考えが最も強かった父は、幼い頃から仲男を一番可愛がっていた。

だからこそ、今このような言葉を聞いて、仲男自身も驚いた。

「父さん、言いたいことはわかりますよ。でも、こういうことは急がないほうがいいでしょう?妹に取り入るようなまねはできませんよ。笑い者になってしまいます」仲男は登美子との兄妹関係を修復したい気持ちはあったが、面子も気になっていた。

これまでそれほど親密な関係ではなかったのに、相手が会社を持っていると知った途端に取り入るようなまねはできないだろう?

父は頷いて言った。「わかっている。無理なことは頼まない。小さなことから始めて、少しずつ変えていけばいいんだ」

「今、登美子の家族は立ち退きの件で芝子の家に引っ越しているだろう。芝子の家は広いとはいえ、二家族で住むにはちょっと窮屈だ。お前の港区のマンションを登美子たちに貸してやれば、それだけでも助かるんじゃないか?」

父の一言で仲男は目が覚めた。そうだ、取り入るのは気が引けても、助けを差し伸べるのは恥ずかしくないはずだ。

「わかりました。登美子に会う機会があったら、この話をしてみます」仲男は頷きながら答えた。

……

その時、水雲亭クラブの外の駐車場で、黒いアウディが左側の端にゆっくりと停車した。

運転席のドアが開き、伊藤春が降りてきた。続いて後部座席のドアが開き、細田登美子と細田芝子の姉妹も車から降りた。

三人は揃って目の前の高級クラブを見上げた。登美子はパラダイスで十数年働いていたので、この水雲亭が井上財閥の企業だということを知っていた。

しかし、今や水雲亭の三文字の横のロゴは、井上財閥からMグループに変わっていた。

「この水雲亭は、私たちの市で一番いいクラブだって聞いたわ」伊藤春がゆっくりと口を開いた。

登美子は頷いた。「ここは会員制で、お金があっても入れない人が多いんです」

芝子は言葉を失った。これは本当に絵里菜の所有なのかと聞きたかったが、そのMグループのロゴは人を欺くことはない。不動産会社もエンターテイメント会社も、同じロゴを使っているのだから。