第608話:彼女はどうすればいい

目を上げると、パンクしたワゴン車が制御を失い、道路から田んぼへと回転しながら突っ込んでいくのが見えた。馬場絵里菜はようやく自分がやり過ぎたことに気づいた。この車が横転すれば、雪絵が危険な目に遭うかもしれない。

しかし、先ほどの行動も彼女にとっては止むを得ない選択だった。あのままでは車は止まらず、相手の銃で蜂の巣にされていただろう。

手を上げ、馬場絵里菜は再び心法でその車を制御しようとしたが、全身の力が抜け切っており、まったく不可能だった。

車内は依然として混乱状態だった。

タイヤのパンクは突然で、誰も心の準備ができていなかった。運転席のジョージ以外は全員シートベルトを締めておらず、車体の回転に伴い、全員が目まいを感じていた。

混乱の中、カールの大きな叫び声が聞こえた。「雷、車を止めろ!」

その言葉が終わるや否や、制御不能だった車体は本当に停止した。車体からわずか半メートルも離れていない所には、2メートル以上もある巨大な岩があった。

車体が突然停止したその光景は、近くにいた馬場絵里菜の目にも映った。彼女は体を支えながら地面から立ち上がり、口角の血を適当に拭い、よろめきながら前に進んでいった。

事ここに至っては、一時的に戦闘能力を失ったとはいえ、逃げることはできなかった。

まず、現在の体調では逃げ切れるはずがない。

次に、たった今友達になったばかりとはいえ、雪絵を見捨てることはできなかった。

ここは既に東京北郊外を出た場所で、東京郊外で最も寂しい地域だった。約20キロ先には山林地帯に入る。

車体から10メートルの距離で立ち止まり、馬場絵里菜は次々と開く車のドアから、髪の乱れた外国人の男たちが降りてくるのを見た。

最後に降りてきたのは、堂々とした体つきの美しい西洋人女性だった。

井上雪絵はカールに脇の下を抱えられ、両手を縛られ、口には黒い布が巻かれていた。両目には涙が溜まり、顔色は先ほどの恐怖で真っ青になっていた。

今や少し惨めな姿の馬場絵里菜を見て、井上雪絵は一瞬にして涙を流し、その目には罪悪感と心配、そして絶望が混ざった表情で馬場絵里菜を見つめ、時折うめき声を上げていた。