第609話：私は彼女に興味がある

「彼女は私に任せて！」

ヘレナは冷たい表情で前に出て、手には鋭い短剣が握られていた。

その短剣の刃は冷たい光を放ち、日光に反射してとりわけ眩しかった！

「んんん……うう……」

井上雪絵はヘレナが持っている短剣を見て、突然激しく暴れ始め、涙が堤防を決壊したかのように溢れ出し、その目には哀願の色が満ちていた。

まるで言っているかのようだった：私は一緒に行くから、お願いだから絵里菜を傷つけないで！

しかし、井上雪絵の力はカールの前では取るに足らないもので、彼女がどれだけ足をバタつかせても、カールはびくともせずにそこに立っていた。

誰も反対しないのを見て、ヘレナの口元には血に飢えた笑みが浮かび、一歩一歩と力なく横たわる馬場絵里菜に近づいていった。

「彼女も一緒に連れて行け！」

そのとき、雷が突然淡々と声を上げた。

ヘレナは足を止め、目に驚きの色を浮かべながら振り返り、信じられない様子で言った：「雷、彼女も連れて行くつもり？」

雷の表情が微かに動き、馬場絵里菜に向けられた視線はより深遠になった。彼は穏やかな口調で答えた：「彼女に、興味がある」

ヘレナは深く息を吸い込み、大きく目を回して、カールの方を見た。

カールも眉をひそめていた。彼は雷のどんな行動にも反対したくなかったが、今の状況は違う。彼は警告せざるを得なかった：「雷、私たちの車は使えなくなった。任務目標を連れて行くだけでも大変なのに、関係のない人に余計な労力を割く余裕はない」

そして目の前の少女は今は反撃する力がないように見えるが、先ほどまでの出来事を考えると、こんな人物を側に置くのは、どうしても不安を感じずにはいられなかった。

やはり彼女を殺した方が、安心できる。

「お前たちが気を遣う必要はない。私が直接彼女の面倒を見る」雷は馬場絵里菜を連れて行くことを決意したようで、異議を許さない口調で言った。

カールは言葉を詰まらせた。雷の機嫌を損ねた結果がどうなるかは、想像に難くない。

それならば……

うなずいて、カールはヘレナに目配せをした。ヘレナはそれを見て、軽くため息をつき、短剣を手のひらで器用に数回回転させてから、正確に腰の鞘に収めた。

柔らかい素材の上着を脱ぎ、ヘレナはそれを縄として使い、井上雪絵と同じように馬場絵里菜の両手も縛ろうとした。