井上雪絵は変身した馬場絵里菜をじっと三秒間見つめ、やっと驚きの表情を浮かべ、大きな目をパチパチさせながら声を出した。「え...絵里菜お姉さん?」
朗星パーティーで馬場絵里菜に会ったことがあまりにも衝撃的だったのか、井上雪絵は馬場絵里菜だと分かっていたのに、口を開いた時は疑問形だった。
馬場絵里菜も嬉しい驚きを感じ、思わず井上雪絵を上から下まで見渡してから、穏やかな笑顔を見せながら言った。「ここで会えるなんて思わなかったわ。どう?体は完全に良くなった?」
あの時、井上雪絵は井上裕人に抱かれて気を失っていたので、馬場絵里菜は彼女が怪我をしていたかどうか分からなかった。
井上雪絵は興奮した様子で頷き、話し始めた瞬間に目に涙が溢れそうになった。小さな顔を上げて馬場絵里菜を見つめながら、詰まった声で言った。「ごめんなさい、絵里菜お姉さん。ずっと電話して『ありがとう』って言いたかったの。でも、私のせいであなたまで巻き込んでしまって、すごく申し訳なくて、本当にごめんなさい。」
井上雪絵のそんな態度と言葉を聞いて、馬場絵里菜は胸が痛んだ。自分が誘拐されそうになったのに、まだ他人のことを心配しているなんて。
あの時、ヘレナがナイフを持って自分の前に立った時の井上雪絵の目に浮かんでいた苦痛と哀願の表情を思い出し、馬場絵里菜は思わず手を伸ばして彼女の頬を優しく撫でた。「大丈夫よ。私が巻き込まれるのを恐れていたら、あの時助けに行かなかったわ。今、私たち二人とも無事なんだから、それが一番いい結果じゃない?」
井上雪絵は馬場絵里菜がこのことで自分を嫌いになることはないと分かっていたが、実際に馬場絵里菜の口から聞いて、大きくほっとした。
やはりそうだった。最初からこの理不尽なプレッシャーと葛藤は、全て自分で自分に課していただけだった。
井上雪絵は力強く頷き、顔にも笑顔が戻った。
心の中の煩わしさが消え、井上雪絵の小さな目は落ち着きなく辺りを見回し始めた。「絵里菜お姉さん、誰と一緒に来たの?」
最初から輝お兄さんが来ているかどうか聞かなかったのは、まだ少し慎みがあるということだ。
「私の兄が連れてきてくれたの。」
井上雪絵は馬場絵里菜の言葉の違和感に気付いた。明らかにその兄は輝お兄さんではない。そうでなければ、直接そう言ったはずだ。