第662話:どこへ逃げる?

井上裕人はソファの背もたれに無造作にもたれかかり、整った顔を少し上げ、馬場絵里菜を横目で見ながら言った。「珍しいか?」

馬場絵里菜は遠慮なく彼を睨みつけ、古谷始の方を向いた。

古谷始はその様子を見て、馬場絵里菜に説明を始めた。「私と井上は親しい友人なんです。」

馬場絵里菜はその言葉を聞いて一瞬驚いたが、考えてみれば、それほど不思議なことでもなかった。

結局、二人は同年代で、若くして東京で大きな名声を得ている。友人同士というのも特に変わったことではない。

そのとき、ウェイターが突然救急箱を持ってきた。「井上様、ご要望の救急箱です。」

井上裕人は手早くそれを受け取り、自分の横に置くと、顔を上げて馬場絵里菜に言った。「こっちに来い!」

馬場絵里菜は彼の眉間にしわを寄せた嫌そうな表情を見たが、救急箱に目が留まると、心の中で思わず温かい気持ちになった。