第671話:彼女は自分の娘だった!

観客たちが次々と拍手を送る中、井上裕人は鈴木秋の側まで歩み寄った。

言葉を交わさなくても、彼の纏う雰囲気と比類なき美しい顔立ちだけで、人々の視線を釘付けにしていた。

「井上様、こんにちは」

井上裕人は軽く頷いた。「鈴木会長、こんにちは」

井上裕人が噂に聞いていたほど近寄りがたい様子ではないことに、鈴木秋は少し安心した。しかし、井上裕人の陰鬱で気まぐれな性格は周知の事実だったため、これ以上の質問は控えめにして、直接本題に入った。「このゲームは二人一組で行う必要があるのですが、井上様はどなたかパートナーをお考えでしょうか?」

なぜか、鈴木秋のこの言葉を聞いた瞬間、客席の馬場絵里菜は背筋が凍る思いがし、何か不吉な予感が心に湧き上がった。

その予感は非常に強く、思わず古谷始の後ろに隠れたくなるほどだった。

ステージ上で、井上裕人は軽く頷くと、観客の視線を浴びながら、真っ直ぐに客席の方へ歩み寄った。その方向は、まさに馬場絵里菜のいる場所だった。

馬場絵里菜は息を呑んだ。来るべきものが来たと悟った。

全ての視線が井上裕人の足取りと共に移動し、彼が馬場絵里菜の前で立ち止まるのを見て、観客たちは納得したような表情を浮かべた。

先ほど井上様が抱きしめていた女性ではないか?

やはり二人の関係は並々ならぬものなのだろう…

馬場絵里菜の意向も確認せずに、井上裕人は直接彼女の手首を掴んでステージへ連れて行った。

馬場絵里菜は拒否も抵抗もしなかった。ゲームのルールでは、選ばれたパートナーは拒否できないことになっていたからだ。彼女は自分の都合でゲームのルールを破り、皆の楽しみを台無しにしたくなかった。

誰もが真剣にこのゲームに取り組んでいる。彼女も例外でありたくなかった。

しかし、馬場絵里菜がステージに上がった瞬間、客席の鈴木強は全身を強張らせた。なぜなら、ステージの中央には馬場長生と橋本好美が立っていたからだ!

心臓の鼓動が思わず加速し、鈴木強は奥歯を噛みしめながら、緊張した面持ちでステージ上の馬場長生と馬場絵里菜を見つめた。

ステージ中央に来ると、鈴木秋は笑顔で馬場絵里菜に言った。「皆さんに自己紹介をお願いできますか」

馬場絵里菜は微笑みを浮かべ、マイクを受け取って優しく言った。「皆さん、こんにちは。馬場絵里菜と申します!」