第690話:まさかお前という小娘か

古谷塀は言葉を聞くと、ドアの横に体を寄せた。「絵里菜さんですね?どうぞお入りください」

馬場絵里菜は遠慮することなく、そのまま門の中に入り、井上裕人を一瞥もせずに通り過ぎた。

後ろにいた井上裕人は、馬場絵里菜の細い背中を見てただ口元を上げて微笑み、スリッパを履いて後に続いて井上邸に入った。

静かな石畳の小道があり、両側には緑の植物と花壇があり、すべてが丁寧に手入れされていた。馬場絵里菜は歩きながら好奇心を持って見回したが、井上邸が本当に驚くほど広いことに気づいた。

しばらく歩いてようやく大理石で作られた噴水が見えてきた。その噴水の向こうに井上家の本邸があった。

井上雪絵はすでに玄関で首を長くして待っており、馬場絵里菜の姿を見つけると、すぐに興奮して手を振った。「絵里菜!」

しかし、馬場絵里菜の後ろに井上裕人の姿が現れると、井上雪絵の笑顔は思わず凍りついた。

お兄ちゃんがなぜ帰ってきたの?今日のことは彼に話してないのに!

「遅れてないよね?」馬場絵里菜は井上雪絵の側に来て、笑いながら尋ねた。

井上雪絵は急いで首を振りながら、小声で言った。「絵里菜、お兄ちゃんには話してなかったの。どうして帰ってきたのかも分からないの」

馬場絵里菜はそれを聞いて、思わず笑って言った。「大丈夫よ、気にしてないわ」

そもそもここは井上裕人の家なのだから、自分が客として来たからといって、井上裕人が帰ってこられないわけがない。

自分は皇帝でもないのだから、外出の際に他人に避けてもらう必要もないでしょう?

絵里菜が本当に不機嫌になっていないのを見て、井上雪絵はようやく安心した。考えてみれば、お兄ちゃんと絵里菜は元々知り合いだし、怒るはずがない。敵同士というわけでもないのだから!

熱心に馬場絵里菜を別荘の玄関に案内し、玄関でスリッパに履き替えてから、馬場絵里菜は井上雪絵についてリビングに入った。

リビングには一面の床から天井までの窓があり、ソファには井上お爺さんが部屋着姿でお茶を飲んでいた。

「井上お爺さん!」

会うなり、馬場絵里菜は非常に礼儀正しく挨拶をした。

井上お爺さんは馬場絵里菜を見て思わず表情を固くし、それから意外そうな表情を見せた。「おや?君だったのか!」