第688章:妥協

馬場長生は突然我に返り、馬場依子の顔を見つめると、一瞬の戸惑いが残っていた。

最後に、馬場長生は尋ねた。「どの芸能事務所だ?」

馬場依子は馬場長生が急に態度を変えたのを聞いて、希望の光が差し込んできたように感じ、すぐさま答えた。「ローズエンターテインメントです!」

「ローズエンターテインメント?」馬場長生は一瞬戸惑い、この名前がどこかで聞いたことがあるような気がした。

よく考えてみると、ハッと思い出した。昨日の朗星パーティーで、ローズエンターテインメントの社長がステージに呼ばれてゲームに参加していたのを覚えていた。

その人の名前は覚えていないものの、重要なのは、このローズエンターテインメントが東海不動産と同様に、Mグループの子会社だということだった。

絵里菜はよく東海不動産の白という姓の総経理の側にいる。今はまだ二人の関係がどういうものなのかわからないが、潜在意識の中で、馬場長生はすでに東海不動産と自分の娘の絵里菜を結びつけていた。

そう考えると、馬場長生は同情の念を抱かずにはいられなかった。

依子は絵里菜の妹だ。もし依子がローズエンターテインメントと契約できれば、絵里菜ともっと接触する機会が増えるのではないか?そうすれば自分も絵里菜のことをもっと知る機会が増えるのではないか?

「お父さん、この会社のこと知ってるの?」馬場依子は父親がまた考え込んでいるのを見て、好奇心から尋ねた。

馬場長生は我に返り、軽くうなずいた。「この会社は新しく設立されたばかりだが、確かにしっかりした企業だ。」

登録資本金が2000万円もある。この規模で始める芸能事務所は、明らかに小さな会社ではない。

馬場依子はそれを聞いて興奮して手を叩いた。「やっぱり!ちゃんとした会社だって言ったでしょ。お母さんったら私が騙されるって思ってたのに!」

そう言うと、馬場長生の腕を掴んで揺さぶりながら、甘えた声で言った。「お父さん、試させてよ。絶対に勉強の邪魔にならないって約束するから、ね?」

馬場長生は深い眼差しで馬場依子を見つめ、最後にため息をついて諦めた。「わかった。お父さんは君の夢を尊重する。でも最初に言っておくが、今一番大事なのは勉強だ。もしこれで成績や受験に影響が出たら、すぐに契約を解除する。違約金なら出せるからな!」