第686章:芸能事務所と契約?

馬場絵里菜は頷いた。「そうよ」

馬場輝は非常に意外に思った。井上雪絵の様子から裕福な家庭であることは感じ取れたものの、まさか井上財閥のお嬢様だとは思いもしなかった。

「彼女から何の電話があったの?」馬場輝は好奇心を持って尋ねた。

馬場絵里菜はソファーに戻って座り、馬場輝を見上げて言った。「井上邸に招待したいって。前に約束したの」

そう言って、馬場絵里菜は馬場輝に尋ねた。「あなたも来てほしいって。行く?」

「やめておくよ」馬場輝は考えるまでもなく首を振って断った。そんな超一流の名家には、きっと面倒な作法が山ほどあるだろう。相手がどんなに親切でも、居心地が悪くなるに違いない。

馬場絵里菜はその様子を見て微笑んだ。こうなることは分かっていたので、それ以上は強要しなかった。

……

夕方、馬場長生は今日特別に早めに会社の仕事を切り上げて帰宅したが、橋本好美がソファーに座り込んで途方に暮れている様子を目にした。

「どうしたの?具合でも悪いの?」馬場長生はそれを見て、急いでソファーまで行き、橋本好美の隣に座った。

手の甲で橋本好美の額に触れてみたが、熱はなかった。

橋本好美はため息をつき、馬場長生の手を下ろすと、こう言い出した。「依子のことなの。芸能事務所と契約したいって言い出して、何を言っても聞かないの」

「えっ?」馬場長生は驚いて聞いた。「芸能事務所?いつからの話だ?」

橋本好美は少し姿勢を正し、馬場長生を見つめて言った。「大したことじゃないと思って、前は話さなかったの。京都から帰ってきてから、私が依子と宝人を連れて買い物に行った日があったでしょう?」

馬場長生は少し考えて、頷いた。その出来事は覚えていた。

橋本好美はそれを見て続けた。「その日、突然芸能事務所のスカウトマンが現れて、依子と宝人の容姿が気に入ったから写真を撮らせてほしいって。宝人は断ったけど、依子は写真を何枚か撮らせたの。それで、その人は依子と連絡先を交換して帰っていったわ」

「ちょっとした出来事だったから、私も気にしていなかったの。でも今日、その会社から電話があって、依子のイメージが気に入ったから契約したいって。具体的な話は聞かなかったけど」