第685話:招待

「はい!」細田登美子は言いながら、キッチンへ向かって歩き出した。

馬場絵里菜は状況を見て、馬場輝に言った。「隼人を見てくるわ。」

絵里菜がリビングを離れるやいなや、テーブルに置いていた彼女の携帯電話が鳴り始めた。馬場輝が携帯電話を手に取ると、画面には雪絵からの着信が表示されていた。

馬場輝は井上雪絵のことを覚えていたので、すぐに電話に出た。

「もしもし」馬場輝は直接言った。「絵里菜を探してる?ちょっと待って。」

そう言って、馬場輝が隼人の部屋に向かおうとした時、電話の向こうの井上雪絵は一瞬で馬場輝の声に気づき、興奮した様子で急いで言った。「輝お兄さま、あなたですか?」

馬場輝は足を止めた。

輝お兄さま……

この呼び方……

少し慣れない感じはしたが、明らかに自分に向けられた言葉だった。馬場輝は仕方なく答えた。「ああ、俺だ。」

電話の向こうの井上雪絵は興奮のあまりベッドから飛び上がり、心の中で虹色の泡が無数に浮かんだ。輝お兄さまの声は電話越しでもこんなに素敵なの、ああ、死んじゃいそう!

心の中では叫んでいたが、井上雪絵は表面上は優雅で控えめな態度を保たなければならなかった。「あの…輝お兄さま、私、雪絵です。覚えていらっしゃいますか?」

「覚えているよ」馬場輝はさらりと答えた。

井上雪絵は電話を握りしめ、直接電話で輝お兄さまを井上家に招待したかったが、緊張で心臓が喉から飛び出しそうになり、しばらく考えても一つの完全な文章を言い出せなかった。

そのとき、馬場輝の方では、ちょうど馬場絵里菜が隼人の部屋から出てきて、兄が自分の携帯電話を持っているのを見て、彼に向かってウインクした。

「誰?」絵里菜は近づいて小声で尋ねた。

馬場輝は電話を彼女に返しながら、静かに言った。「雪絵だ。」

馬場絵里菜はそれを聞いて、すぐに理解した様子を見せた。電話を受け取って耳に当てたが、まだ何も言う前に、向こうの井上雪絵は心の準備ができたようで、不安げな声が聞こえてきた。「あの…輝お兄さま、絵里菜をうちに遊びに招待したいんですけど、お時間ありますか?一緒に来ていただけたら…」

「雪絵?」

馬場絵里菜は不思議そうな表情で呼びかけた。

電話の向こうの井上雪絵は声を聞いて一瞬固まった。えっ?人が変わった?

我に返り、急いで言った。「あっ、絵里菜、私です。」