第684章:心配はいらないよ

言い終わると、お婆さんは細田仲男を自分の方へもう少し近づけ、声を落として言った。「私とお父さんの考えはね、もし本当に彼女のことが好きで、結婚を考えているなら、早い方がいいってことよ。どうせ結婚するつもりなんでしょう?」

細田仲男はそれを聞いて、思わず諦めたような表情で軽くため息をついた。「母さん、結婚するつもりだとしても、今はまだその時期じゃないよ。」

「どうして?」お婆さんは目を見開いて、理解できない様子だった。

細田仲男は唇を噛んでから、こう言った。「母さんとお父さんは玲奈のことを受け入れてくれたけど、梓時はどうなの?梓時はまだ玲奈に会ったこともないのに、突然見も知らない女性と結婚すると言われても、受け入れられるわけないでしょう?」

細田仲男のこの言葉は、実は半分は本当で半分は嘘だった。確かに息子が同意するかどうかを心配していたが、自分の心の中でも再婚についてそれほど急いでいなかった。

中山玲奈のことが好きなのは事実だが、結婚したいほど好きなのかどうかは、細田仲男自身も心の中で計りかねていて、今のところ明確な答えを出せないでいた。

最も重要なのは、今や会社が完全に自分のものになり、この達成感は結婚では得られないものだということだった。

細田仲男のこうした複雑な心境をお婆さんは見抜けなかったが、その言葉を聞いて「あら、そうね。梓時のことを忘れてたわ」と、まるで目から鱗が落ちたかのように口を開いた。

「もういいよ、母さん。心配しないで。夕が妊娠したんだし、最近は店の開店で忙しいはずだから、時間があったら手伝ってあげて。僕のことは分かってるから」細田仲男は言い終わると、書類カバンを手に取って直接出て行った。

お婆さんは頷いて何も言わなかったが、後を追って「運転気をつけてね!」と声をかけた。

……

翌日の昼、馬場絵里菜は兄から母がパラダイスに戻って働くという知らせを聞き、時間を作って叔母の家に戻った。

ちょうど細田芝子と進藤峰は不在で、隼人は部屋で夏休みの宿題をしていた。馬場絵里菜はこの機会を利用して細田登美子をリビングのソファに座らせた。

「そんなに心配しなくていいのよ。渡辺ドクターに相談してから決めたことだから」

娘のこの様子を見て、細田登美子は何を言いたいのか察し、先に口を開いた。