月島は言葉を聞いて困ったような表情を浮かべただけで、多くを語らずに洗面所に戻って歯磨きを続けた。
二人が武道場に着いた時には他のみんなも既に来ていたが、普段なら入るとすぐに先輩たちの声が聞こえるはずなのに、今日は不思議なほど静かだった。
前庭を通り抜けると、二人は応接室から漏れ聞こえる話し声を耳にした。
普段のこの時間帯は、みんな朝の練習前のストレッチとリラックスの準備をしているはずなのに、今朝はどうして応接室に集まっているのだろう?
不思議に思いながら、馬場絵里菜と月島は前後して応接室に足を踏み入れた。
「絵里菜ちゃん、やっと来たね!」
馬場絵里菜を見るなり、西野孝宏が真っ先に声を上げた。その声には興奮と喜びが隠せていなかったが、それは馬場絵里菜をより一層困惑させた。
みんなが集まっていたが、馬場絵里菜が来るのを見ると自然と道を空けた。
馬場絵里菜はようやく、応接室のソファに座っているのが師匠の中川彰だと分かった。中川彰は左足のズボンを捲り上げ、笑顔で彼女を見つめていた。
「師匠、これは一体...」
馬場絵里菜はまだ状況が飲み込めていなかったが、みんなの様子からして何か良いことがあったのだろうと察した。
「絵里菜ちゃん、師匠の足が今日かなり良くなっているのが分かったんだ!」古谷浩が興奮した様子で急いで説明した。
馬場絵里菜はその言葉を聞いて、顔を輝かせ、中川彰の足に視線を向けた。「師匠、本当ですか?」
中川彰は感慨深げに頷いた。「昨日までは特に変化に気付かなかったんだが、今朝早く起きてみたら、突然足の不自由さが明らかに改善されているのに気付いた。よく見なければ、両足が健常な人とほとんど変わらないほどになっているんだ!」
そう言うと、中川彰は感謝の気持ちを込めて馬場絵里菜を見つめ、こう続けた。「絵里菜、これもお前のおかげだ。渡辺ドクターの医術は素晴らしい。私の足は何年も前からダメになっていて、もう希望も持てなかったのに、渡辺ドクターはたった一ヶ月ちょっとでここまで回復させてくれた。本当に素晴らしい!」
宮原重樹は最初、臭い薬膏を一瓶送ってきただけだった。中川彰は素直に宮原重樹の指示通り毎日塗り続け、半月後には別の内服薬も届いた。中川彰は相変わらず宮原重樹のメモ通りに毎日決まった量を決まった時間に煎じて飲んでいた。