馬場絵里菜は軽く頷いたが、心の中では少し笑いたい気持ちがあった。
一体全体どういうことなんだろう。自分の会社の人が馬場依子というお芝居上手を見つけたなんて。
とはいえ、話は別として、馬場依子のイメージと雰囲気は確かに悪くなく、芸能界に進出する素質はある。ただ、彼女のことがどうしても好きになれない。それなのに彼女が契約しようとしている会社が、ローズエンターテインメントなのだ。
馬場依子は馬場絵里菜の目から羨望や嫉妬の色を探ろうとしたが、明らかに失望に終わった。
馬場絵里菜の心は全く動揺せず、まるでどうでもいい話を聞いたかのようだった。
エレベーターは東海不動産のフロアまで上がり続け、馬場絵里菜は馬場依子のことを考えていたため、馬場長生が彼女に向ける未練がましい視線に全く気付かなかった。
エレベーターのドアが開くと、馬場絵里菜は馬場依子に軽く微笑んで「じゃあね、バイバイ」と言った。
馬場依子が返事をする前に、馬場絵里菜は既に足早にエレベーターを出ていった。
表情が少し硬くなった馬場依子は最後に口を尖らせ、心の中で何となく気落ちした。
馬場長生については、馬場絵里菜の姿が視界から消えるまで、ようやく名残惜しそうに視線を戻した。
「依子、同級生かい?」馬場長生は突然馬場依子に尋ねた。
馬場依子は頷いて「同じクラスの同級生で、私と同じ苗字なんです」と答えた。
馬場長生はもっと聞きたかったが、エレベーターはすでにローズエンターテインメントのフロアに到着していた。
「お父さん、ここよ!」
馬場依子の情熱が再び呼び覚まされ、興奮した表情で馬場長生の手を引いてエレベーターを出た。
二人を出迎えたのは、ローズエンターテインメントの契約部門の副部長で、ココという名前の、外見はスタイリッシュで有能そうで、仕事は迅速果断な女性だった。
会社の応接室にて。
「写真より実物の方が綺麗ね」
ココは馬場依子を一目見た瞬間、最初の言葉として褒め言葉を述べた。
馬場依子はそれを聞いて軽く微笑み、心の中では得意げな気持ちでいっぱいだったが、表面には照れくさそうな笑顔を浮かべた。
そして馬場長生の方を見ると、ココは自ら名刺を差し出して「はじめまして、ローズエンターテインメントのココと申します。馬場依子さんのお父様でいらっしゃいますか?」