ちょっと驚いて、細田梓時は思わず顔を上げて馬場絵里菜を見た。「何だよ?」
「飲みなよ。まさか顔を洗えって言ってるわけじゃないでしょ?」馬場絵里菜は笑いながら言った。「助けてあげたんだから、もう以前みたいに遠慮する必要ないでしょ?あなたも同じよ、普段どんな態度か私だって知ってるんだから」
細田梓時はそれを聞いて顔をしかめた。「僕がいつもあんな風に君に接してるのに、なんで助けてくれたの?」
「たまたま出くわしちゃったからでしょ?」馬場絵里菜はコーラを無理やり細田梓時に渡しながらため息をついた。「それに私たちがどれだけ仲良くなくても、あなたは私のいとこで、伯母さんの息子なんだから。他のことは知らないふりできても、伯母さんの顔は立てなきゃいけないし、目の前で息子が殴られてるのを見過ごすわけにはいかないでしょ」
伊藤春の名前が出ると、細田梓時も気力が抜けたようで、コーラを握る両手が不安そうに、全身が緊張しているように見えた。
しばらくして、やっと弱々しく口を開いた。「絵里菜……」
馬場絵里菜は眉を上げて彼を見つめ、続きを待った。
細田梓時はゆっくりと顔を上げて馬場絵里菜を一瞥し、すぐにまた俯いて、つぶやくように言った。「あの……このこと、お母さんには言わないでくれる?」
馬場絵里菜は少し口元を上げた。まだ良心があるようだ、伯母さんを心配させたくないという道理はわかっているらしい。
息を吐きながら、馬場絵里菜は頷いた。「いいよ。でも話をはっきりさせてね。先に言っておくけど、私はあなたのプライベートに首を突っ込みたいわけじゃない。ただ助けてあげたからには、前後関係を知りたいの。あの人たちはなぜあなたを殴ったの?」
馬場絵里菜は本当に好奇心があった。
細田梓時の家柄は第二中学校のような名門校では目立たないかもしれないが、第一中学校では裕福な家庭の子供と言えるだろう。
こういうお小遣いに困らない子は、普段は友達も多いはずだ。
細田梓時の足はかなり痛そうで、そのまま馬場絵里菜の隣に壁に寄りかかって芝生に座り込んだ。
馬場絵里菜は彼のこの様子を見て、正直に話すつもりだと分かった。
急かすこともなく、馬場絵里菜はそのまま細田梓時の隣で壁に寄りかかり、彼が話し始めるのを待った。