細田繁の八百屋。
お婆さんは今日早朝からバスに乗ってやって来て、青りんごと梅干しの入った袋を持ってきた。
彼女が店を手伝いに来るようになってから、ほぼ2、3日おきに酸っぱいものを買ってくる。最初、鈴木夕は珍しさもあって食べられていたが、日が経つにつれて本当に耐えられなくなってきた。
男の子を妊娠しているとしても、こんなに食べるものだろうか?
毎日毎日、口に入るものはすべて酸っぱいものばかり。
妊娠してまだ間もないのに、出産までずっとこれを食べ続けると思うと、夕は我慢の限界を感じていた。
お婆さんが洗って目の前に出してくれた青りんごを見て、夕はついに口を開いた。「お母さん、私もうこういうものは食べられません。唾を飲み込むだけでも酸っぱいんです。」
お婆さんはそれを聞いても怒らず、むしろ夕を心配そうに見て言った。「じゃあ、お母さんに言ってごらん、何が食べたい?」
お婆さんが怒っていないのを見て、夕は少し安心し、勇気を出して言った。「角の店で煮込み鶏の足が売ってるんですけど、鶏の足が食べたいです。辛いものが。」
「鶏の足?」お婆さんは言いながら、うなずいた。「いいよ、お母さんが買ってくるわ。」
お婆さんが急いで店を出て行くのを見て、夕は少し驚いて目を瞬かせた。
辛いものが食べたいと言ったのに、お婆さんは特に反応しなかった。もしかして自分が気にしすぎているのだろうか?
そう考えていると、細田繁がやってきた。
「今、お母さんが角の方に行くのを見たけど、何しに行ったの?」繁は夕に尋ねた。
夕はそれを聞いて、笑いながら答えた。「さっきお母さんがまたりんごを洗って食べさせようとしたんだけど、りんごじゃなくて辛い鶏の足が食べたいって言ったら、買ってくると言って出かけたの。」
繁はそれを聞いて、少し驚いた様子だった。「お母さん怒らなかった?」
「怒らなかったわ!」夕は彼を睨んだ。「怒ってたら自分から鶏の足を買いに行くわけないでしょ?」
繁は頷きながら、夕に笑いかけた。「じゃあ君が間違ってたんだね。お母さんをそんな非情な人だと思って。妊娠したんだから、美味しいものが食べたいって言えば、お母さんが許さないわけないじゃないか?食べさせないなんてことあるわけない。」
夕もそう思い、頷いた。