山下言野は今年二十六歳だ。
普段接する女性といえば、山下おばあさんと白川露依おばさん、そして恋多き山下莉理くらいだった。
女の子の手を触るのは初めてだった。
ドキドキ。
心臓が制御不能なほど激しく鼓動していた。
頬は真っ赤に染まり、熱くなっていた。
山下言野は必死に落ち着こうとしたが、レンチを持つ手は制御不能なほど震えていた。
このまま震え続けたら、パーキンソン病なんじゃないかと疑うほどだった。
小林綾乃を見ると、相変わらず何事もなかったかのように平然としていて、声も淡々としていた。「大丈夫よ、江湖の人間が細かいことを気にする必要なんてないわ」
実は。
小林さんの手のひらには冷や汗が滲んでいた。
ふぅ!
落ち着け落ち着け。
彼女だって大きな場面を経験してきた人間なのだから。