053:永田徳本の末裔、大物の手腕(初回購読、1万字の章)_5

その言葉を聞いて、小林桂代は一瞬固まった。

幻聴かと思うほどだった。

「もう借りないの?」小林桂代は眉をひそめた。

古川月は微笑みながら言った。「はい、もう借りません。」

「どうしてですか?」小林桂代は続けた。「契約の時、5年間という約束でしたよね?まだ2ヶ月も経っていないのに。」

古川月は笑顔を崩さずに、「小林さん、まず、この店舗は私たちのものです。私と夫が大家なので、あなたたちに貸すかどうかは、私たちの判断です。」

そう言い終わると、古川月は解約契約書を取り出した。「これが契約書です。ご心配なく、私たちもあなたを不当に扱うつもりはありません。契約に基づいて多額の補償金をお支払いします。あなたは字が読めないと聞いていますので、最後のページに拇印を押すだけでいいんです。」

拇印?

田中麗子は小林桂代と話をしに来たところで、入り口でその言葉を耳にした。

彼女はバカではない。拇印が何を意味するか当然わかっていた。

綾乃は彼女たちに恩がある。こんな時、見過ごすわけにはいかない。すぐに足を早めて、「綾乃のお母さん、絶対に拇印を押しちゃダメです!」

邪魔が入って、古川月は眉をひそめ、田中麗子を振り返った。「あなたは誰?これはあなたに関係のないことでしょう?」

余計な口出しをする野良犬め!

「綾乃のお母さんは私の恩人です。これが私に関係ないわけがありません!」田中麗子は中に入って来た。「あなたたちは本当に厚かましいわ。最初に店を貸す時はなんとも言わなかったのに、今になって商売が繁盛してきたら、こんなことを!あなたたちは彼女たちの商売がうまくいっているのを妬んで、自分で儲けたいだけでしょう!あなたたちの考えていることなんて、私にはお見通しよ!」

「私が彼女を妬む?」古川月は冷笑し、目には嫌悪感が満ちていた。「鏡を見て自分の分際をわきまえなさい!本当に彼女が商売を成功させたと思っているの?これはすべて私たちの店舗の立地と風水が良いからよ!そうでなければ、とっくに路頭に迷っているはずよ!」

恥知らずな田舎者め!

本当に自分に能力があると思っているのね!

この店舗の立地が良くなければ、どうしてこんなに商売が繁盛するはずがあるの?

笑い話よ!

田中麗子は古川月と口論するのを避け、小林桂代の方を向いた。「綾乃はどこ?」