彼女は本当にここが好きだった。
渡辺麗希は赤いワンピースを手に取り、「店長さん、これ試着してもいいですか?」
ここの商品は全て卸値で、店長の態度は専門店ほど良くなく、淡々と「いいよ、汚さないでね」と言った。
「ありがとうございます」
渡辺麗希はバッグを小林綾乃に渡し、試着室に入った。
松本楠敬は端の方で電話を受けていた。
小林綾乃は外で渡辺麗希を待っていた。
その時、もちこが彼女の方に走ってきて、そのまま彼女の足にしがみついた。
「ママ!」
ママ?
小林綾乃は呆然とした。
「お嬢ちゃん、人違いよ」小林綾乃はしゃがんで、もちこの頭を撫でた。
もちこは二つのおさげ髪をしていて、とても可愛らしく、白くて柔らかそうな肌をしていた。大きな瞬きする目は話しかけてくるようで、思わずキスしたくなるほど愛らしかった。
「間違ってないよ」もちこは小林綾乃をじっと見つめ、真剣な表情で言った。「パパが言ってたの。ママは世界で一番綺麗な女の人だって。だから、あなたが私のママに違いないの!」
小林綾乃は笑いながら「おばさんは確かに綺麗かもしれないけど、本当にあなたのママじゃないのよ」と言った。
「違う違う、ママだよ!」もちこは小林綾乃の足にしがみついたまま離そうとせず、話しているうちに泣き出してしまった。「ママ、もう萌を置いていかないで。これからは萌、とっても良い子になるから...」
もちこの言葉を聞いて、小林綾乃は突然胸が痛くなった。
この子は小さい頃に母親を亡くしたのだろう。
そうでなければ。
父親が「ママは世界で一番綺麗な女の人」なんて言うはずがない。
そして彼女も「ママを置いていかないで」なんて言わないはず...
どういうわけか。
小林綾乃は突然、前世の自分を思い出した。
しばらくして、小林綾乃はもちこを抱き上げ、笑顔で「萌って言うの?」と尋ねた。
もちこは目を擦りながら頷き、不満げに「ママ、私は渡辺萌だよ。萌の名前も忘れちゃったの?」と言った。
小林綾乃は周りを見回して子供を探している人がいないか確認し、「萌、いい子だから泣かないでね」と言った。
もちこは頷いて「うん、言うこと聞くよ。泣かないよ。私はママの一番いい子で一番可愛い子だもん」と言った。
もともと可愛らしい子供だったが、この時はさらに愛らしく見えた。