松本楠敬が歩いてきた。
渡辺麗希は続けて言った。「楠敬、こちらは私の親友の小林綾乃よ。」
そして優しい表情で綾乃の方を向いて、「綾乃、こちらは松本楠敬よ。」
松本楠敬は綾乃を見て、「松本楠敬です。」
「小林綾乃です。」綾乃は淡々とした口調で、たった名前だけを告げた。
渡辺麗希は綾乃の腕を取り、「綾乃、私の家はあっちよ。案内するわ。」
松本楠敬は後ろについて行き、呆れた表情を浮かべていた。
彼は麗希が綾乃という新しい友達を大切にしているのを知っていた。
でもここまでする必要はないだろう?
まるで犬のように媚びているじゃないか!
情けない。
家に着くと、麗希は執事が前もって入れておいたお茶を綾乃に注ぎ、「綾乃、このお茶を飲んでみて?父が特別に富士山から持ち帰ったのよ。」
このお茶は一両で十万円するそうだ。
麗希も詳しくは分からない。
綾乃もあまり詳しくないだろうと思い、適当に一握りを持ってきた。
一口飲んで、綾乃は考え深げに言った。「このお茶で茶卵を作ったら美味しそう。」
「好きなの?」麗希は続けて言った。「じゃあ今度母に作ってもらうわ。」
これを聞いた松本楠敬は「...」
彼は麗希を叩き起こして、自分がどれだけ安っぽく見えているか気付かせたかった。
もう救いようがない。
一両十万円もする大紅袍で茶卵を作って綾乃に食べさせようだなんて!
綾乃はバッグを開けて中から二つの箱を取り出し、「これ、あげる。」
麗希は不思議そうに「綾乃、これは何?」
綾乃は言った。「これはニキビに効く化粧品で、こっちは美白用よ。どちらもとても良いわ。この前、あなたがニキビ肌って言ってたでしょう?これを試してみて。お母さんは美白の方を使えるわ。」
麗希は自分が何気なく言っただけなのに、綾乃がちゃんと覚えていてくれたことに感動し、綾乃を抱きしめた。「あぁ!綾乃、あなって本当に優しい!大好き!」
松本楠敬は眉をひそめ、綾乃が麗希にプレゼントした化粧品を見下ろした。
美人亭?
彼は男だが、これが有名な化粧品ブランドではないことくらい知っている。
小さなブランドにも及ばないものだ。
こんなものを人にプレゼントするなんて。
麗希が綾乃を親友だと思っているのが馬鹿らしい。