小林綾乃は力を入れすぎたようだ。
彼は今は勉強に集中したいだけで、どうしてこんなことに気を取られるだろうか?
そう言って、城井沙織は斎藤明露の方を向いて、「それと、明露もこれは秘密よ」と言った。
斎藤明露は頷いて、「分かった分かった」と答えた。
秋山春樹は続けて言った:「じゃあ、話してて。私は先に帰るよ」
秋山春樹の家は3階にある。
夕方のラッシュ時はエレベーターが混んでいるので、彼は階段を使うことにした。
小林綾乃の新しい借り部屋は2階にある。
小林綾乃の部屋の前を通りかかると、ドアが開いていて、入り口に黒猫が座っているのに気付いた。
ドアの外から、小林綾乃のシルエットがかすかに見えた。
秋山春樹はちらっと見ただけですぐに視線を外した。小林綾乃はわざとドアを開けていたのだろうか?
彼女は自分に見せたかったのだ。
そう思うと、秋山春樹は口元に微笑みを浮かべた。
小林綾乃は魚肉ソーセージを持って部屋から出てきて、皮をむいて、かがんで黒猫の前に差し出した。「ちびちゃん、家に賞味期限切れのソーセージがあるんだけど、食べる?」
明らかに。
小林綾乃のこの言葉は余計だった。
ソーセージの匂いを嗅ぐと、黒猫は両前足でソーセージをしっかりと掴み、ニャーニャー鳴きながら、離そうとしなかったからだ。
かわいそうな子だ。
きっと何日も空腹だったのだろう?
小林綾乃は猫を見つめて、「本当にかわいそうな子ね」と言った。
黒猫にソーセージを渡すと、小林綾乃は部屋に戻って仕事を続けた。
ドアはまだ開いたままだった。
黒猫は入り口でソーセージを食べ、食べ終わると、おそるおそる部屋の中に入っていった。
数歩進んで、小林綾乃が追い出さないのを確認すると、黒猫はさらに大胆になり、彼女の足元まで来て座り込み、眠り始めた。
小林綾乃が仕事を終えてパソコンを閉じると、自分の足元に黒猫が寝そべっているのに気付いた。
小林綾乃は少し顔を下げて、「かわいそうな子、どうして入ってきたの?私、猫は好きじゃないのよ!飼うなんて考えないでね」
黒猫は小林綾乃を見上げて一声、「ニャー」と鳴いた。
「名前は何ていうの?」と小林綾乃は続けた。
「ニャーニャーニャー」黒猫は小林綾乃の言葉が分かったかのように鳴いた。