080:複数の身分_3

「ちょうど通りかかったところだ」と言いながら、山下言野は運転席から一冊の本を取り出し、「これはあなたのですか?」

緑色の表紙の本だった。

少し古びていた。

名前は書かれていなかった。

「どうしてあなたが持っているの?」小林綾乃は緑色の本を受け取りながら、驚いた様子で尋ねた。

彼女はこの本を数日間探していた。

まさか山下言野が持っているとは。

山下言野は淡々とした口調で、「この前送った時に、車に置き忘れたんだ。今気づいたところだ」

「ありがとう」

「たまたま通りかかっただけだよ」

小林綾乃は本を持ちながら、「今度タピオカミルクティーをおごります」

「何度目の『今度』かな?」山下言野は眉を少し上げた。

もし彼の記憶が間違っていなければ。

これで小さな子が彼にタピオカミルクティーをおごると言うのは三回目だ。

でも小さな子から積極的な誘いは一度もなかった。

ちっ。

女の口から出る言葉は信用できないというが、小さな子も例外ではないようだ。

小林綾乃は軽く笑って、「今度こそ必ずおごります」

「いいよ」山下言野は軽く頷いて、「用事があるから、先に行くよ」

「気をつけて運転してください」

「ああ」

すぐに、黒いフォルクスワーゲンは夜の闇に消えていった。

車のスピードは来た時ほど速くなかった。

時速七十キロ程度を保っていた。

すぐに、修理工場に着いた。

一橋景吾はちょうど今日最後の車の修理を終えたところだった。

「三郎さん、やっと戻ってきましたね!」

この修理工場は確かに山下言野が経営しているのに、修理工になってしまったのは彼だった。

西京の人々がこれを見たら、彼が落ちぶれて車の修理で生計を立てているのだと思うだろう。

「どうした?」山下言野は彼を一瞥した。

一橋景吾は手を振りながら、「さっき黒武が来たんですが、もう帰りました。三郎さん、どこに行ってたんですか?」

「小さな子に本を届けてきた」

「まさか!」これを聞いて、一橋景吾は目を見開いた、「あの緑の表紙の本は本当に小林さんのものだったんですか?」

「彼女のものだ」

一橋景吾は喉を鳴らし、しばらくして山下言野を見つめて、「三郎さん、小林さんって一体何者なんでしょうか?」

ゲームを作れる!

古代エジプト語も読める。