080:複数の身分_3

「ちょうど通りかかったところだ」と言いながら、山下言野は運転席から一冊の本を取り出し、「これはあなたのですか?」

緑色の表紙の本だった。

少し古びていた。

名前は書かれていなかった。

「どうしてあなたが持っているの?」小林綾乃は緑色の本を受け取りながら、驚いた様子で尋ねた。

彼女はこの本を数日間探していた。

まさか山下言野が持っているとは。

山下言野は淡々とした口調で、「この前送った時に、車に置き忘れたんだ。今気づいたところだ」

「ありがとう」

「たまたま通りかかっただけだよ」

小林綾乃は本を持ちながら、「今度タピオカミルクティーをおごります」

「何度目の『今度』かな?」山下言野は眉を少し上げた。

もし彼の記憶が間違っていなければ。

これで小さな子が彼にタピオカミルクティーをおごると言うのは三回目だ。