088:山下が嫉妬して、目論見が外れる_7

「うん」山下言野はボタンを留めながら言った。「気をつけて行ってね」

「はい」

一橋景吾が顔を出して、「小林さん、送っていきましょうか?」

「結構です。南通りまで行くだけですから」

南通りはすぐ近くだった。

一橋景吾は笑いながら言った。「何かあったら電話してください」

「はい」小林綾乃は軽く頷いた。

——

花月マンション。

今日の城井家は大勢の客で賑わっていた。

4LDKの家でも座る場所が足りないほどだった。

城井お母さんは喜色満面で、親戚たちにお茶やお菓子を勧めていた。

城井沙織は書斎のピアノの前に座り、年下の弟や妹たちにピアノを教えていた。

「沙織ちゃんはすごいわね。ピアノは何級まで取ったの?」

質問したのは城井お母さんの遠い親戚の中村香で、世代的には沙織の伯母にあたる人だった。